エリン家のライ②
「いや、ライの言う通り我々の目的達成の為にはこれがベストだ。エネドラ、お前が心配せずともすぐに機会は訪れる」
そんな二人の間に割って入ったのはハイレインだった。
ライの主張を認めつつ、エネドラを宥める彼からは余裕が感じ取れる。
ライが「策士」と例えたハイレインはライと同様に、数手先の盤面を脳裏に思い描いていた。
――――
そしてハイレインの言葉はすぐに現実となった。
「今が好機だ。ラービットの機能を果たす準備は整った。お前たちにはそれまでの間、玄界の兵と遊んでもらう」
アフトクラトルの新型トリオン兵・ラービットを対処するために玄界の戦力は散り散りとなってしまっている。
今ならば各個撃破も難しくない。その場面をハイレインがみすみす見逃すはずがなかった。
まずは作戦の第一段階、ラービットの追加投入を宣言する。
「ハイレイン隊長。一つ、よろしいですか」
「……どうした、ライ? 何かお前に考えでもあるのか?」
まさに出撃の命令を下そうとしたその瞬間、ライがハイレインを呼び止めた。
思いがけぬ者からの意見にハイレインの手が止まる。
進言の許可を受けたライは一つ咳払いをすると、静かな声色で続けた。
「敵はトリオン兵に気を取られ、我々の事まで気が回っていません。こちらの戦力のタイミングも一つずらせば敵の混乱はさらに増すはず。あちらの動向を上手く見極めれば敵の挟撃も難しくないでしょう」
「……つまり、お前も今このタイミングでラービットと共に出撃すると?」
「はい」
ライの言わんとする言葉を察してハイレインが問い返すと、ライがゆっくりうなずく。
本来ならば先にラービットを追加で出撃させ、そして敵の反応を見てからエネドラを始めとしたトリガー使いが一斉に出撃する算段であった。
だがライの言う通り一部戦力を先んじて送り出すことで敵の動きを誘導することも悪くない。こちらの思惑を敵に悟らせにくくする事にも繋がるだろう。あるいは相手がこちらの戦力を誤って判断するかもしれない。
「単機の出撃か? 豪胆だな」
「おいおい。綺麗事を並べてるが、ようはただ自分の手柄が欲しいだけじゃねえのか!?」
「そんな思惑はないよ。より敵戦力の分散が容易になる。そう考えただけだ。……まだ向こうも全戦力を出しているようには見えないので」
彼の提案をランバネインは豪快に笑い、エネドラは煽るように言葉を荒げた。
しかし賛同を得られずともライは凛とした姿勢を崩さない。彼はまだ玄界の戦力は底が見えていないと感じ取っていた。だから自分が動くことで戦局を動かそうと、俯瞰的な視点で分析していたのだ。
「どうしますか、ハイレイン隊長?」
「……そうだな」
ミラが最終的な決定をハイレインに問う。
話を振られたハイレインはしばし考えに耽るように顎に手を当てて、
「いいだろう。ライ、出撃を許可する。一足先に暴れてこい」
そして彼の進言を受け入れた。
ライの力、戦い方は作戦を共にしてきた為によく知っている。故に単独行動させたとしても彼の生存能力を考慮すれば問題はないと判断したのだ。
ハイレインの本来の目的を考慮しても、問題ないと。
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