ハーメルン
REGAIN COLORS
部隊加入IF A級①

「どうだ。頼まれてくれるかね?」

 城戸がいつも通りの強張った表情を浮かべ、今や個人最強と名高い太刀川へと問いかける。
 何の前触れもなく突然上層部に呼ばれた太刀川に告げられた話の内容は、新たに太刀川隊へ新人を加入させてほしいという依頼であった。
 城戸司令言わく、その人物はボーダーを支援するスポンサーの息子であり、本人の強い要望でA級入りを強く打診したのだという。ちょうど太刀川隊は長く部隊を支えていた烏丸が玉狛支部への異動が行われようとしていた時期。変革期という事で新たに隊員を迎え、世話をしてほしいという事だった。

「うーん。そうですね」

 どうしたものかと太刀川が後頭部をかきながら相槌を打つ。
 彼自身別に不満があるというわけではなかった。確かに素人が加わる事で任務や戦闘で足を引っ張る事もあるが、烏丸がいなくなっても太刀川、出水、国近という秀でた3人がいれば何の問題もないという自負がある。今更一人お荷物が増えたところで部隊の強さには支障は出ないだろう。それを補って余りある戦力が揃っている。
 ゆえにここで二つ返事で頷いても良いのだが。

「——いいですけど。一つ、条件が」
「何だ慶?」

 太刀川の言葉に彼の師匠である忍田がいち早く反応した。
 面倒ごとを嫌い、基本的に上からの命令にはすぐに応じる太刀川が交換条件を提示した事に疑問を感じたのか、あるいは単純に弟子が望むものが気になったのか。その真意は不明だが、師匠から視線を向けられた太刀川は「無理ならいいですけど」と前置きを置き、そしてにやりと大きな笑みを浮かべる。

「今B級でフリーとなっている紅月。あいつをうちの部隊に入れさせてください」
「——ッ!」
「ほう」
「紅月を?」

 太刀川が挙げた隊員の名前に、上層部の面々は驚愕、興味、疑心と様々な表情を浮かべる。
 紅月という姓の正隊員は一人しかいない。すなわち紅月ライ。数か月前に突如ボーダーに現れ、瞬く間に頭角を現した新入隊員、という事になっている人物だ。
 その彼の経歴については上層部はもちろん太刀川もよく知っている。

「城戸司令達にとっても問題はないでしょう? 少なくとも俺の隊にいれば注目度も増して期待に背くような動きはできないはずですし。あなた方がそう言えば紅月も応じるようになるでしょ。一足先に紅月を加入させ、その後で新人も追加させれば太刀川隊の部隊降格の心配もありませんし」
「……なるほど」

 太刀川の言わんとする事を理解し、城戸が重々しく口を開いた。
 『期待に背く』。それは普通の隊員として、というだけではなく、もっと深い意味を指し示しているのだと理解できる。
 いまだに城戸はライに対して疑惑を抱いていた。実力を持ちながらも部隊に属さずにいる状態も、何かの企みの一部ではないのかという疑惑が生まれてしまうほどに。

(万が一の場合でも、彼ならば問題はないだろう) 

 そんな彼が下手な動きをしないように監視する。確かに精鋭と名高い太刀川隊に加入させることで不審な動きを防げるだろう。
 ライとしても上層部からの指示となれば無視はできないはずだ。城戸側の視点としても監視の目がつく事、戦力として安定した運用ができるとメリットが多い。
 城戸の決断は早かった。
 一つ間を置き、城戸は答えを待つ太刀川に向け了承を唱えるべく口を開いた。

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