邂逅
一人の少年がいた。
彼は失った記憶を求め続け、その過程で多くの仲間や新たな思い出を作り出す。
長い戦いの果てに、彼は自分が忘れようとした記憶を取り戻した。そして自分が持つ力が人々を傷つけ、命を奪ってしまいかねない危険をはらんでいるという事を思い出す。
「僕は、ここにいてはいけない」
迷いなく、そう言い切れた。
「未練はある。だから未練はない」
未練ならある。
やり残したことが多くある。まだやりたい事が数えきれないほど存在する。
失いたくないほど大切なものがたくさんできた。
故に、それら全てを終わらせてしまいかねない自分はいるべきではない。
ここに残る事に未練はなかった。
『みんなが僕を忘れますように』
最後に少年は世界に向けて願いを籠める。
自分に色をくれた人々に、自分を失った悲しみを味合わせないように。全てが泡沫の夢のように消えてほしいと。
彼の願いは確かに叶い、大きすぎる代償として彼はその力を失った。
「——時の歩みを止めないでくれ! 俺は、明日が欲しい!」
少年の眠りから約一年後。同じ力を持つ友が、同じ場所で、同じように世界に願いをかける。
固定された過去も、停滞する今日もいらない。人々が求め続ける明日を欲しいと力の限り叫んだ。彼の願いも平等に叶い、この地で眠る少年にも叶う事となる。
ただしこことはまた異なる場所、世界にて。
————
『門発生、門発生。座標誘導誤差03.27。近隣の皆様はご注意ください』
三門市。
人口28万人を有する日本の街は突如開いた門より現れた異界の侵略者・『近界民』と呼ばれる異形の化け物の脅威に晒されていた。時に多くの犠牲者を出しながらも『ボーダー』と呼ばれる対近界民専門の防衛組織の隊員達の活躍により人々の生活は守られている。
「よっしゃ。今回は俺達が一番乗りか?」
今日も新たに出現した門の報告を受け、颯爽と駆けていく隊員の影が二つあった。
得意げに笑うのは米屋陽介。数いるボーダー隊員の中でも精鋭と謳われるA級の隊員だ。
A級三輪隊攻撃手 米屋陽介
「無駄口を叩くな。さっさと近界民を殺して終わるぞ」
「わかってるって」
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