第14局 姫松の騎士
晩成高校控室。
今日が2回戦の晩成だったが、卓のトラブルで開始が遅れていたので、やえは自身の集中力を高めるため、控室のソファに座って目を閉じていた。
そんな自分たちのエースである、やえの真剣な雰囲気に、晩成でおそらく声をかけられるのは1人だけ。
「やえさん、倉橋さんの試合始まってますけど……見なくていいんですか?」
やえはスッと目を開く。
「いいのよ、あいつはどうせ勝つわ。なんなら出し惜しみして全力でやってるのかも怪しいものよ。結果だけ後で見るわ」
興味がないとも、信頼してるともとれる発言に、声をかけた新子憧は、きっと後者なのだろうと感じた。そして伸びをしてリラックスし始めたやえに対して、もう1つ質問をぶつけてみる。
「やえさんは、どうして晩成に来たんですか?あんなに強い友達が3人もいて、皆同じ高校に行けば、そうそう負けなかったですよね?」
聞こうと思って聞いていなかった話題。他の3人の話はよく聞くものの、肝心の進学先のことは聞いたことがなかった。
「それじゃね、意味がないのよ。中学で同じチームだった私達は痛感したの。私たちは集まっちゃいけない。強すぎるから」
傲慢ともとれる発言だが、その言葉に異議を唱えるものなど、4人のメンバーを知らないか、麻雀を知らないかだ。
突然高校に入って強者が増え、とんでもない化け物が関東に2人も出てきたが、中学時代は無敗だったこの4人。メディアにも注目されている。
「だから私達は別の学校に行こうって話になったの。お遊びじゃない、全員で削りあう、もう一回が無い真剣勝負を、他の3人としたかったから。ま、1人バカがミスったせいで姫松に2人いるケド」
いつのまにか、アコ以外のメンバーもやえの言葉に聞き入っていた。
そんな状況を知ってか知らずか、今度はやえがアコに話しかける。
「あんたこそ、なんで晩成きたのよ。幼馴染から誘いもあったんでしょ?」
やえはアコと話す機会が多かったので、アコの大方の事情を知っていた。幼馴染に、高校で麻雀部を作ろうと誘われていたことも。
「私は……強い高校で麻雀が打ちたかったんです」
「へえ、でもそれなら、関西にはそれこそ千里山も姫松も選択肢にはあったんでしょ?」
この世界で、麻雀の強い高校に行くために越境することは珍しくない。むしろ関東から関西の高校に来る生徒もいるし、逆も然りだ。
奈良くらいにいれば、関西の高校は大体どこへでも行く選択肢がある。
「私は……去年のインターハイをずっと見てました。そこで私は、やえさんの絶対にあきらめない強い麻雀を見て、やえさんと同じ高校で麻雀がしたいって、そう思ったんです」
アコの表情は真剣そのもの。なかなかやえにこういったことを直接言える機会はないので、その場にいる会話を聞いていた後輩たちも我先にと賛同する。
「わ、私も!1年生から活躍してる小走先輩に憧れて入りました!」
「ウチもです!去年の個人戦、見てました!」
「ウチも!」
ソファ越しに振り返ってみると、モニターを見ていると思っていた後輩たちが皆こちらを見ている。
それを見て、一瞬驚いたような顔をして、フンとやえは前を向いてしまった。
「……本当におバカばっかりね。この高校は。そんな下らない理由で晩成に来たなんて知らなかったわよ」
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