97話 特別なお仕事 その2
10月×日
「流石に身体痛いなぁ」
結局昨日は御影君宅で雑魚寝して一夜を明かしてしまった。配信もしていないのに電気を消してからもずっと2時間近くみんなで本当に取るに足らない中身もないような話をしていた。大学生ではあるある、みたいなノリらしいのだが私は生憎とそういった事とは無縁だったので中々に新鮮な気分ではある。職場のオフィスチェアを3つくらい並べて簡易ベッドにしてぼっちで仮眠取ってた事は度々あったが。
この歳になるとこういうのは身体にかかる負担が大きい。肩は凝るし。イマイチ疲れも抜けきっていない。だが、たまにはこういうのも悪くないと思ってしまう。どうにも最近は時間経過がより一層早く感じる。果たして自分は何か成長出来たのだろうか。ただただ今の恵まれた環境に甘えているだけなのではないだろうか。
砂上の楼閣のようにやがて崩れ去ってしまうのではないだろうか？ そんな一抹の不安はある。いや……私の場合は楼閣なんて立派な物ではない、ただの泥船とかそういう類のものか。
「――と、今は準備しなくちゃだな」
今日はどうしても外せない案件があるので早々に帰宅して、シャワーを済ませた。あらかじめ、何かしらの問題で新幹線が止まることも考慮して事務所でも配信出来るように根回しはしておいたのだが、杞憂に終わって良かった。公共交通機関が止まるような状況になったら、そもそも事務所でも配信出来るような状態なのか甚だ疑問ではあるのだが。何にせよ何事もなく帰宅出来て良かった。
さて、今日はくりぃむソフトさんの最新作『Blossom Days』の体験版配信案件のある日だ。事前に配信しても問題ないような中身であるかは、ソフトメーカーさんとマネージャーの犬飼さんに確認をしてもらっている。ダブルチェックは大事。本当に。ただ、現場では名ばかりのザルみたいなチェックになってることもあるけれど。
ちなみに前作の『Flower Days』の続編であり、前作のアナザーストーリーとして人気のあったサブキャラクターのシナリオがメインとなる作品。前作キャラクターもその後のアフターストーリー集みたいなものもある所謂『ファンディスク』と呼ばれるものだ。
「前作案件以来の視聴者様もいらっしゃることかと思います。あんだーらいぶ所属の神坂怜です。どうぞよろしくお願い致します」
きた
デバッグ担当さん、ちーっす
スタッフロールに名前載ったvtuber
「えーっと、今回は事前にメーカーさんからお題目というか。簡単な進行方法みたいな台本をいただきましてね。その結果に応じてなんと視聴者の皆さんにプレゼントがあるそうです」
すげー
視聴者数少ないから倍率低くてたすかる
やめたげてよ！
「頂いた資料そのまま読み上げますね……修正箇所指摘一箇所に付き1名様に今作メインヒロインを演じられていた葵 陽葵さんのサイン入りタペストリーをプレゼント致します。製作スタッフがわざと誤字等を3箇所入れたそうなので、それを全て見つけ出せれば最大3名様にプレゼントということだそうです」
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