103話 急転
10月×日
「成程なあ……」
妹の親友であり、SoliDlive所属の十六夜嬢と音信不通とのこと。チャットアプリでも既読すら付かない状態だという。タイミングを考えればつい先日あった影尾氏の配信内容がキッカケと思って間違いはないだろう。大々的に『大手VTuber事務所関係者からのリーク情報！』と宣伝が行われ、こちら界隈ではそれなりに注目を浴びていた。私もいつぞやの柊先輩の一件もあって警戒はしていたのだが、あんだーらいぶ外の出来事のはずが周りまわってこちらにまで影響してくるとは思いもしなかった。
内容としては『あんだーらいぶ』と同じく企業VTuberの事務所――バーチャルタレント事務所として知られる『SoliDlive』所属の十六夜 真嬢に関することだった。ザックリいうと『家族間のトラブルで最近配信回数激減、引退も近いのでは？』と言う感じの内容であり、事務所に対する批判などを繰り返し訴えているようだった。まあいかにもっていう印象の内容ではあるが。やられた方はたまったものじゃあないだろう。思春期の子なら特に。見ていて余り気持ちのいいものではない。その後の周囲の反応含めて、ね。
この配信の後、妹が心配になって連絡を取ってみるが一切連絡が付かず。一晩明けてしまい、現在進行形で音信不通状態であるとのこと。公式のSNSの方もここ数日一切ツイートがない。リプ欄は『引退しないで』といったニュアンスのコメントやら『影尾氏の枠から』と言って配信のまとめやスクショを貼り付けるユーザー。後者は言うまでもないが、前者も一見心配しているようにも取れるが……当事者から何も発表がないのに第三者の、それも情報元が不確かな配信を真に受けて『引退する』と半ば決め付けたようなコメント。わざとなのか分からないけれども、これはこれで傷付くと思う。なまじ根っこに悪意がないから尚更に刺さるだろう。良い人のフリして刺しにこられるのが一番クるんだよなぁ。マジで。
自宅に確認したところ、昨日までは部屋に引き籠っていたが今朝になって「学校に行ってくる」と言って家を出たっきりと言う。
事務所の方から彼女の母親宛に謝罪と現状の説明にお偉いさんがやって来ていたそうだが、その時彼女と母親の間で口論になってしまったそうだ。そりゃあ自分の娘を預けるのだし、こういう対応がしっかりしていないところには文句のひとつも言いたくはなる気持ちは分かる。
元々母君自身VTuber活動に懐疑的だったらしく、オーディション応募時にはお婆さんを後見人としていたらしいのだ。母親に黙って応募した件もあり、当初は色々揉めたらしいのだが、デビュー後は活動が順調に進んでおり母君も仕事の合間に配信のアーカイブを見たりするようになっていたとか。それで話は丸く収まるはずだった……そこで今回の一件。娘のためを想って活動の休止や引退を考えてみてはどうか、ということで揉めたんだとか。
結果的に影尾氏の『家族間のトラブルにより配信出来なくなった』と後出しされた情報によって、それが現実のものになってしまっている。そもそも配信頻度が落ち込んでいるのは現役高校生故のことで、ウチで言うブラン嬢や日野嬢も時折テストやら課題やらで休むことが多いのと同じだ。
彼女の場合は親御さんから『成績を落とさない』と言う条件で、V活動を続ける了承を取ったと言う背景があるので勉学に時間を割いていたのだ。特に直近では中間テストがあったのだから配信頻度が減ることに関しては何も違和感はないはずだ。にも関わらず、こう言った情報に惑わされるファンもいるのが悲しい現実。夏休みあたりから彼女を知ったファンも多いだろうし、ファン全員がその辺の深い事情まで把握しているわけではないが。ライト層ユーザーが急増した弊害とでも言うべきか……？
[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/10
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク
