ハーメルン
アラサーがVTuberになった話。
120話  3D配信 その1

11月×日

 唐突な話だが、柊先輩の3D配信が決まった。もっともやるってこと自体は結構前から決まっていたんだけれども。今月やるとは思わなんだ。本当はよろしくないのだろうけれども、告知はかなり直前になった。一応匂わせ的なことは柊先輩の方からしていたらしいが。先月末私が大炎上した件の払拭のために、前倒ししたような形だったりしないだろうか? そうだとしたら申し訳ないな。

 『あんだーらいぶ』という同じ箱に所属する以上、誰かが何かやらかせばそのまま他のメンバーにまで影響が波及してしまう傾向にある。逆に恩恵を受けるケースも往々にしてあるので、一概に悪いとは言い切れないが。普通の芸能人さんたちが所属するようなレーベルはそういうのは余りない気がするが。その辺は所属演者同士の関係性がそっち界隈より深いことが要因だろうか。

「イベントからもうそんなに経ったんだ」

 6月末にリアルでお披露目するイベントが開催されたが、あちらは基本的に有料でチケット購入者のみが参加、視聴できる仕様だった。現地で直接参加した人もいれば、遠方のファンなんかはネットチケットを購入することでその模様を見る事が出来た。今回は全編無料公開の配信である。半年近く前の話になるのか。あっと言う間だった気がする。ともあれ、そちらに参加できなかった。あるいは視聴出来なかったファンも大勢いる。あの後で先輩のファンになった人も大勢いるだろうし、今後こういった3Dでしか出来ない企画、配信もあるだろう。それを考えるとまだまだこの業界も伸びていくのかもしれない。

 どういった配信内容にするかは知らされていないのだが、何故かスタジオに呼ばれた。朝比奈先輩も一緒なのだが。イベントの時には控え室から配信画面を通して見ていたので、中々新鮮な気持ちで参加できそう。前説事前収録した事以外は、スタッフさんのお手伝いとかしていたくらいだし。どういう機材とか使っているのかは気になるところだ。まあ見ても分かんないんだろうけれど。

「呼ばれたは良いが、何するんだろう?」
「賑やかし要員じゃない? ねー、今日は肉と魚どっちの気分?」
「前先輩が肉肉言って野菜もろくに食べていなかったので、お魚で良いんじゃないですか?」
「海鮮かー、寒いし鍋とかいいかも。野菜も食べられるし」

 朝比奈先輩は既に配信後に行くお店をうきうきで選んでいた。週末とは言え、まだ忘年会シーズンではないし。当日の予約でも何とかなるのだろうか。まあ都内にはお店も多いから選択肢も多いだろうし。緊張感のカケラもないというか、何ならちょっと食事に来たくらいの心持ちですらある。

「これが仮に怜くんや他の子の配信なら緊張感もあるんだろうけどねぇ。あの人はほら……ね? 大体何準備しようとも本人が素で面白いじゃん。気にするだけ損だよ。気軽に行こうよ、気軽に」

 私の胸中を見抜いたのか、あるいは表情に出ていたのか。先輩がスマホで店を検索しながらそんなことを言う。配信やらオフで会う機会も多いので、すっかり気心の知れた仲――と言うには少々言い過ぎかもしれないけれども。少なくとも前職の飲み会なんかよりはずっと気が楽だし、中身のないような話に花を咲かせるのも悪くはないと思ってしまう。

「そんなものですかね……」
「そんなものだよ。あの人そういう才能というか、そういう星の下に生まれた人だから」

 柊先輩は人から好かれる、人から愛される、人を楽しませる。そう言った点で群を抜いている。そりゃあ男性Vtuberナンバーワンは伊達ではない。私が『敵わない』と感じたように、朝比奈先輩もまた同じような感情を抱いているのだろうか。

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