ハーメルン
アラサーがVTuberになった話。
2巻発売記念 閑話『同人誌即売会(夏)』

8月×日

 同人誌即売会当日。わたしはmikuriという名前でイラストレーターとして活動している。そんなわたしにとってのある意味お祭りであり、集大成の発表会でもあるのがこのイベントだ。

「どう、可愛いくなーい?」
「まあ、ガワは良いからね。ガ・ワ・は」

 事前の宣言通りにわたしがお節介でデザインした神坂雫ちゃんのコスプレでイベント参戦している同業者である『すーこ』がドヤ顔で服の裾をたくしあげて見せる。酢昆布が好きと言うだけでそれをペンネームにした生活力やその他あらゆるステータスを犠牲にイラストとその()()に全振りしたような奴。止めなさい、ウチの娘はそんなはしたないことはしない。解釈違い。

 こういったイベントの時には必ずと言っていいほど本のネタにしたキャラクターのコスで参戦するのが恒例となっていた。同様のことをやっていない作家先生がいないわけではないが、珍しい事には違いない。あと無駄に美人なのでネットで話題になることもしばしば。『美人すぎる同人作家』みたいな記事を出されたこともある。それを見ては「ねえ、ほら美人だってー」と自慢してくる。

「どっちがブースの主役か分かんないわね……」
「でもそっちだって神坂兄妹本みたいなもんじゃん。ある意味そっちの宣伝にもなってるわけじゃん?」
「そうなんだけどさ」

 本来、この子も出展する予定だったが落選してしまったらしく、知らない仲じゃないのでわたしのブースで委託販売する形になった。という訳で今日は売子、店番として参加している。ブース主より目立っているけど、まあ売子としては非常に優秀だとは思う。

「それ、自前って相変わらず凄いわね……」
「レースのとことか頑張ったわ。まあアクションゲームとかのキャラクターよりは全然楽よ。武器とかそう言う系ないから」
「あー……確かに武器系は大変そう」
「わざわざ溶接の講習受けたもん。作ったけどめっちゃ重くて断念したこともあったわね……」

 この子、努力の方向性が色々おかしいような気がするんだけど。それだけ本気でやれるって言うのは普通にオタクとしてもクリエイターとしても尊敬できるところではある。少しは普段の生活習慣とか見直していただきたいところではある。

「すっごい、怜くんのファンなんです!」
「ありがとう、これからも応援してあげてね」
「勿論です! 彼が温かい家庭を築けるまで、いやその先もずーっと見守っていきます」

 とまあこんな風にファンの子が熱い想いを語って本を買ってくれるのは滅茶苦茶嬉しい。ただし、大体が愛が重いというか、普通の「きゃー、格好良い! 大好き!」みたいなノリとはまた別なのが面白いような怖いような。あの子が結構特異な存在というか、普通なように見えて普通じゃないところとかが色々共感を生むところがあるのだろう。そしてその共感できる人の大半が何かしら問題を抱えた人が多いという……

「愛が重い、重くない? ワイみたいにガワ良くてイケボだからって言う理由の人も結構いるはずなんだけど……」

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