13話 歌リレー 時々曇
5月×日
歌。この界隈においては割とお約束なのが歌枠。単純明快歌う配信。きちんと収録、調整した上で動画をアップロードする場合もある。あんだーらいぶにもお抱えとまではいかないが、相当数依頼しているフリーのミキサーさんもいらっしゃる。それは単純に箱内で「〇〇さんにお願いしたら良かった」みたいな情報共有がされているから、同じ人に偏りがちになってしまっているだけなのだが。
「困った。うーん困った」
愛しのマイシスターがチョコケーキを美味しそうに頬張っている姿を眺めながら独言する。それを聞いて少し怪訝な顔で妹が問う。
「なに? そのわざとらしい言い方」
嫌な顔しながら構ってくれる妹マジ天使。可愛い。明日のおやつはリクエスト聞いてあげちゃう。
「マシュマロとかコメントでね、以前からリクエストがあったんだよね、歌の」
「うん。まぁお約束だしね。後声がいい……わ り と、良いし――」
「ふへへ、ありがとう」
気恥ずかしくなって後から慌てて『わりと』と取って付けるの可愛くない? いや、絶対可愛いに決まってるじゃん。
「気持ち悪い笑い方しないでよね! せっかくのケーキが不味くなる」
「ごめんごめん。緑茶お代わりいる?」
「……いる」
割と和風の緑茶がチョコケーキには合うのである。コーヒーでも良かったのだが、両親がこの後食べる事も考えてこのチョイス。余った分は夕食時にも回せるし。
「――で? 何なの」
「今度箱内で歌枠30分ずつくらいでリレーしないかっていう企画があってね」
「へぇー、今度はお声がけあったんだ。良かったじゃん」
「まぁ、前回は例の事件の直後だったしね。それに、この前のリアイベピンチヒッターから割と気にかけてくれてるみたい。でもね……」
「ん?」
「お兄ちゃん、学生時代の合唱コンクール以外で人前で歌った事ないの」
「は? カラオケとかあるでしょ」
「ないの……」
「…………」
そう――暗い学生生活を送ってきた私。カラオケと言う代物に行った事がないのである。一緒に行くお友達とかいない。一人カラオケとかもハードル高くない? 会社勤めだった頃接待で女の子のお店……キャバクラとかに行ったときとかどうすんねん――って? 基本取引先の人ずっと歌ってるから大丈夫だったんだよなぁ……
「それないわぁ」
「(´・ω・`)」
5月×日
妹とカラオケデート。やはり持つべきものは妹。はっきりわかんだね。狭い密室に二人きりなんて、お兄ちゃんちょっとドキドキしちゃう。てなわけで、そんな妹への愛を込めて歌います。
「――いや、普通に下手くそ」
「(´・ω・`)」
「お世辞言われても嬉しくないでしょ。ほら、採点も70点じゃん」
悲報カラオケ採点70点は下手くそ。
うせやろ……7割やぞ? センター試験なら国公立目指せるレベルじゃん。
「もう時間もないし、この際機械的な評価なんて放っておいた方がいいかなぁ……」
「よく分かんないけど、妹が兄を想ってくれるアドバイスなら何でも聞く」
「ひとまず――てぇい」
妹が私の腹を軽く一突き。悪戯な笑みを浮かべて言い放つ。
「腹から声出せ。技術なんてどうでも良いから。ありったけの気持ち乗せて歌う。それなら下手でも不快に思う人は少なくなる……はず」
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