ハーメルン
アラサーがVTuberになった話。
プロローグ

2月X日
 突然だけれども退職しましたまる。過労でぶっ倒れて危うく現世とおさらばするところだったのだ。仕方がないね。それなりに責任感を持って仕事に臨んでいたのだが、流石に医者から「過労で死にますよ?」なんて遠まわしにであっても言われてしまっては仕方があるまい。作戦『いのちだいじに』だ。貯金だけはあるから暫く休んで再就職先でもゆっくり探そう。

 後、歳の離れた妹が凄い心配してくれた。かわいい。胸はないけれども。だがそれがいい。

2月X日
 日中密林プライムで米ドラマ見ていたら、妹からパソコン貸して欲しいと言われる。スマートフォン持っているだろうに、とも思ったが大画面で見たい動画があるらしい。
 私の「何を見ている?」との問いに妹は「Vtuber」と一言だけ答えた。「それは一体何者ぞ」と更に問いかけるととても早口で大量の情報をこちらに一方的に投げつけてきた。

 アニメや漫画のようなキャラクターのガワを被って配信する者のことを『バーチャルYouTuber』と言うらしい。妹は『あんだーらいぶ』なる『箱』を推している。

 スマホすら持ってないしパソコンの操作も未だ覚束ない私にとってはもう何だかよくわっかんねぇ……軽薄な男に夢中になっているよりかはずっと健全だとは思うのだが、愛妹のことを(たぶら)かしたVtuberなる存在許すまじ。


2月X日

 突然だけれどもVtuberのデビューを目指すことになりましたまる。

 即落ち二コマやん、ワレェ!……との突込みは甘んじて受け入れよう。
 妹から「声だけはいいからオーディション受けてみなよ。男のライバー少ないしチャンス」と言われたのだ。最初は断ったが可愛い妹からの上目遣いで頼まれちゃったから仕方ないネ。きっと推しのサインがどうとかいう話は無関係のはずだ、多分。お兄ちゃんのことを利用するような悪い子じゃないもん、きっと照れ隠しのはずである。

 書類の趣味特技の欄を空欄で出したけれど、ないからしゃーない。就職するときは読書だとか映画鑑賞だとか趣味のない人の書くテンプレで埋めていた記憶がある。選考に使う動画は版権フリーのショートストーリーの朗読。昔取った杵柄というか、初恋の女の子が在籍していたというだけの理由で所属していた放送部の経験が活きたらしく、録音や編集に立ち会った妹は大満足の出来のようだ。妹の喜ぶ顔が見れてお兄ちゃん嬉しいよ。

 ちなみにその女の子は高校二年生の夏に金髪のチャラい先輩とお付き合いすることになりましたとさ。その後傷心の私に声をかけてくれた幼馴染と付き合うことになるのだが、オチとしては大学進学で遠距離恋愛になって二ヶ月でヤリサーのチャラ男に寝取られましたまる。

 あ、でもNTR系もイケる口になったよ。よかったね(泣)

2月X日

 オーディションに受かった。

 えぇ……うせやろ。採用担当者大丈夫ぅ?

 来月末にデビュー配信があるとかなんだとか。会社から配信用にスマートフォンが支給される。アダルトコンテンツとか見ると会社に筒抜けになったりしないだろうか、とか割とどうでも良いことを心配する。NTR同人CG集とか好き好んでDLしてるとかアカンこれじゃ社会的に死ぬぅ。
 マネージャーさんにオススメされたパソコンや機材を一式揃えると中々の出費になる。レシート、領収書は取っておくようにと言われていたのでひとまとめにして机の引き出しにぶち込んでおく。確定申告とか結構大変そうだなぁ、何てことを頭の隅に浮かべながら。

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