ハーメルン
アラサーがVTuberになった話。
88話  焼肉オフコラボ1★

9月×日

「うわぁ……」

 人様の家に入って一言目に言うセリフではないと思うのだが、思わずそういう言葉が出てくるくらいの惨状であった。

「いや、うん……ごめん。片付け間に合わなかった」

 ゴミ袋やら掃除機が出ている辺り直前まで片付けていたことが窺える、柊先輩。以前もお邪魔した事がある高層マンション(エントランス+コンシェルジュ付き)という物件。通信販売の段ボールやら、ゴミ袋やらで溢れ返っていた。今日はオフで先輩の家で先月Vertex大会の商品として頂いた高級なお肉の引換券を利用した、焼肉オフコラボ開催となった。ちなみに朝比奈先輩は午前中事務所で打ち合わせと収録があるとかで、夕方からの合流予定だ。

 私は元々暇だったのもあって早めにこちらに合流して食材の買い足しなどを先輩と一緒に回る予定だったが、昨日先輩から「片付け手伝って」というSOS信号を受け取った。そりゃあもういつもお世話になっている身としては馳せ参じるのは至極当然。それに場所を提供してもらうのだから、このくらいの仕事はしても罰が当たらないというもの。逆にこの有様だと片付け甲斐があるというものだ。幸い時間にはまだ余裕があるし。

「そう言えば、先輩いつもは夏嘉ちゃんが通い妻しているんじゃなかったでしたっけ?」
「夏休み終盤から課題やらテストやらで忙しかったみたいでなぁ……いや、マジで情けねぇ……」

 妹の夏嘉ちゃんが定期的に掃除やら料理やらをしていると以前聞いたが、この現状を見るに最近は来ていないようだ。『通い妻』という表現に関して一切否定しない辺り流石はシスコン。同じ妹を持つ身として気持ちはよく分かる。

「学生さんも休み明けは大変ですからねぇ。あ、これは捨てていいやつですか?」
「あ、うん。いらないやつ」

 空になったジャムの瓶を指して問うと不要という返答があったので、ビン類をまとめた袋へ。口の広いタイプで何かに使えそうだったので一応確認してみた。我が家だったら自家製のジャムとか梅干しとか入れてると思う。口の広い大きな瓶って結構使い勝手が良いのだ。

 段ボールをバラしてビニール紐で纏めておく、さて次は水回りというかキッチン周りだな。幸い定期的に夏嘉ちゃんが通っているだけあって、洗剤やら掃除道具は買い置きがあったりと中々に充実している。しかも私が普段使わない様なメーカーの物で、その洗浄力や効果にワクワクが止まらない。

 事前に聞いた話では『偶然持っていた』との事だったが、明らかに未使用の真新しい無煙グリルを見るに、わざわざこのために購入したとしか思えない。わざわざそれについて言及するのも無粋というものだろう。ついさっき、それが入っていたであろう段ボールも片付けたし。

「完全に主夫だなぁ……うーん、俺が女だったら告白してるわ」
「なんですか、それ。あとこれ、お貸しいただいてよかったんですか?」
「妹から貰ったやつだし、普段全然使ってないからなぁ……後、流石に服汚すと困るだろうし」
「ほぼ全身をユ〇クロとワー〇マンでコーデしてるのでそんなに困らないんですけどね。元々匂い移ること前提の服装みたいなとこはありますし」

 家事等あまりしない先輩がエプロンを持っていることが少々意外と失礼なことを思ったが、どうやら夏嘉ちゃんからの贈り物らしい。表立っては色々兄に対する不満を呟きながらも、こういうところを見ると何だかんだお兄ちゃん大好きっ娘なんだなぁーと思ってしまう。一時アニメで流行っていた『ツンデレ』というやつか。我が家のマイシスターも似たところがあるし、思春期の子だとどこも同じなのかもしれない。

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