ハーメルン
【完結】Sorge il sole
第九話 芽生え

――俺、ミランチャって言います。よ、よろしく!
――そんな目で見ないでほしい。
――初対面でそんなこと言われるって……よっぽど変な目つきしてんのか、俺。
――あー、オディウルは誰に対してもこんな反応だから気にするな。ワシはガル。よろしくな。
――ごく普通の対応が沁みるぜ……へへっ。


――え、新入り? ずっと俺ら三人だったのに珍しいな。
――しかも子供か。ますます接し方が分からん。
――彼女はラファエラという。仲良くしてやってくれ。
――よろしくお願いします。
――よろしくなー。……おいオディウル、笑顔が引きつってて怖ぇんだけど。


 小鳥が囀り木々が茂る癒しの場に、似つかわしくない男達がいた。
 オリハルコンで作られた鎧は陽光を浴びて美しく輝いている。その鎧の主である槍を持った男はまだしも、全身が金属でできた兵士が表情豊かに立っている光景は現実離れしていた。
 双方に殺気はない。男の方は無精ひげを引っ張りつつ、槍をくるくると回している。
「いい天気だなぁ……絶好の散歩日和だ。あんたらのことが嫌いなわけでもねえし、いっそのんびり雑談していたいところだが――」
 ヒムは黙って拳を構える。ミランチャの全身から放たれる空気が変わったのを感じたのだ。
「そういうわけにも、いかねえよなぁ!」
「ぐっ!」
 鋭い音が響き、ヒムの体に線が生じた。
(速えっ!)
 ヒムは呻きを噛み殺し、刃を見切ろうと目を凝らす。
 必死の形相の彼とは対照的に、ミランチャは気負いのない面で攻撃を繰り出す。身のこなしは緩やかにさえ見えるのに、放たれる攻撃は鋭い。
 閃光のごとき速度で振るわれる槍に切り裂かれ、ヒムの反撃は届かない。接近すれば少しはマシになるだろうが、ミランチャはそれを許さないように立ち回っている。拳に有利な間合いに入らせず、一方的に攻撃してくる。
 まともに戦っていては状況は覆せない。リーチの差もあり、手が出ない。
 ならばどうするか。
 ヒムが思い浮かべたのは、彼が好敵手と認めた相手だ。
(アイツならカウンター狙いだな)
 とどめを刺そうと突進してきた時に拳を叩きこむ。賭けの要素が強く、危険だが、やってみるしかない。
 その場に立ち攻撃を待つヒムに対し、ミランチャは距離をとった。助走をつけ、加速する。高速だがヒムには見切れる自信があった。
 矢のように真っ直ぐ飛び込むミランチャの速度を計算し、反応しようとした瞬間、速さが急激に変わった。背の翅を使い、ミランチャは攻撃のタイミングをずらしたのだ。
 体勢の崩れたヒムにミランチャは槍を突き刺し、斬り裂く。
「ぐあっ!」
 肩からわき腹にかけて裂傷を刻まれた。地面に倒れるが、必死に身を起こす。ミランチャは再び遠距離から加速し、一直線に突っ込んでくる。
(くそっ……どうしたら――)
 カウンターも読まれ、回避される。来るのが分かっていても反撃できない。タイミングに関係なく広範囲に打ち出せる技でなければ、ミランチャは捉えられない。
(ヒュンケル……!)
 最も認めた男の顔が再びヒムの脳裏をよぎった。
 新たに思い出したのは、彼との戦いの中で食らいそうになった技。
 とっさに両腕を体の前で交差させ、光の闘気を練り上げる。
 一点に光が集中し、必殺の一撃を叩きこもうとしたミランチャに解き放たれる。巨大な光の十字が形成され、ミランチャへと伸びた。

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