第十話 小さな宝物
――おじいちゃん、これほしいな。
――かまわないが、なぜ?
――カタミがほしくて。
――か、形見?
――うん! ……ところでカタミって何?
ポップとラーハルトの行く手を阻むのは二人。屈強な体躯の男と、目を閉ざした幼さの残る少女だった。
男の、緑の鱗に覆われた頭は竜そのものだが、首から下は人間とほぼ同じだった。斧と槍を組み合わせたような形の武器を握りしめ、少女を庇うように立っている。
少女の顔立ちは整っているが、翼はゴツゴツしている。柔らかい服には似つかわしくない、大きく無骨なボタンが目立っている。
「退いては……くれないか。勇者の加勢に行くというならば、戦わねばならん」
厳つい外見とは裏腹に男の声は穏やかだ。ラーハルトは何も答えず、ポップが気になっていたことを尋ねる。
「その女の子は?」
「そう言えば名乗っていなかったな。これは失礼した」
ガルは丁寧に頭を下げ、手で傍らの少女を指し示した。
「彼女はラファエラという。ワシはガル」
「そうじゃなくて! ……その子も戦うのかよ」
少女の手足は細く、少し小突いただけで折れてしまいそうだ。戦わせるべきとは思えない。
ガルも同感なのか、俯いて溜息を吐く。
「戦いに参加させたくないが、どうしてもと言って聞かぬのでな」
竜の困り顔という珍しいものを披露しつつも、ガルは武器を構え直した。体重を乗せて大地を蹴り、力強く踏み出す。
勇猛な突進をラーハルトが迎え撃つ。空を断ち割る重い音と風を切り裂く軽い音、甲高い金属音が競い合うように奏でられる。
ガルは重いはずの得物をちっぽけな棒きれのように振り回している。凄まじい速度を誇るラーハルトの連続攻撃に対処できている。
がきりと武器が組み合い、膠着状態になった。
均衡を崩すべくポップがベギラマを放ち、澄んだ音が響き渡った。
「でえっ!?」
予想外の展開にポップは目を剥いた。ガルは盾や鎧を着けていないのに弾き返したのだ。
武器はラーハルトが食い止めている。大怪我まではいかずとも、多少は傷を与えられるだろうと踏んでいただけに、完全に弾き返されてポップの頬を冷や汗が流れる。
地面に転がりこむようにして避ける彼にラーハルトが冷たい眼差しを送るが、それに腹を立てる余裕もない。
ガルとラファエラをよく見ると、二人の体を赤い光の球体が包んでいる。少女の両手が特に強く輝いているため、彼女が弾いたのだろう。
「おじいちゃんには指一本触れさせない!」
「お、おじいちゃんだってぇ!?」
竜頭のガルと華奢な少女では受ける印象が違いすぎる。
ポップの考えを読み取ったように、ガルが重々しく告げた。
「血のつながりはなくとも家族だと思っておるよ。……作られた身で家族を語るのは烏滸がましいかもしれんが」
「そんなことない!」
ムキになって叫ぶラファエラの面には『家族』を案じる表情が浮かんでいる。自分の能力で敵の攻撃を防ぐという固い決意も。
「……やりづらいな。色んな意味で」
「呪文が通じんなら下がってろ」
困り果てたポップと違い、ラーハルトは冷静だ。槍を振りかざし、さらに速く突く。
疾風のような攻撃が斧をかいくぐり、ガルの体へと迫り――弾かれた。
衝撃に体勢が崩れたところへ斧が振りかざされる。隙をつかれ、ラーハルトは顔をこわばらせ己へと迫る刃を見た。
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