第十六話 神喰
無数の銀色の光が流星のように下界へ降ったのを見て、尖った耳と美しい髪を持つ天界の住人――精霊は訝しげに眉をひそめた。
ただならぬ気配を感じたものの、彼らの主は情報をもたらそうとはせず、協力を呼びかけもしないままだ。
宮殿で激闘が繰り広げられているとも知らず、精霊の大半は日常に戻ったのだった。
彼らは知らない。
勇者と大魔王が天界で戦っていることを。
人間の神が竜の神と魔族の神を吸収し、天帝となったことを。
地上と魔界の住人が力を合わせて危機を乗り切ったことを。
天の弓を停止させ、ひとまずアバン達とヒム、ヒュンケルはパプニカの城内に集合し、休息していた。
天の弓を止める間ラファエラはずっと眠っていたが、ようやく呪文の効果が切れたため目を覚ました。頼りのガルがおらず、つい先ほどまで戦っていた地上の者達に囲まれているため怯えている。
戦闘で結界を張り続けていたため魔力が尽きかけている。どうしたらいいかわからないように空へと視線を向けている。
緊張と恐怖に震えていた彼女だが、アバンやマァムらが笑顔とともに話しかけると表情が和らいだ。敵意がないことを読み取ったのだろう。
意思疎通を図れそうだったため、一同は彼女が戦いの場に来た訳を尋ねてみた。
「おじいちゃんも神さまも何も言わなかったけど、大変なことが起こる気がして無理矢理ついてきたの」
小さな手が服のボタンを握り締める。
神々の宣告を聞かせると、彼女は信じられないように何度も首を横に振った。
「そんな……。キアロさまは、ほかの世界の人たちの輝きをもっと見たいって言ってたのに」
世界を滅ぼしては人々の勇姿も見られなくなる。矛盾する言動に混乱しているラファエラに、ポップが質問する。
「精霊はどうなんだ?」
何気ない疑問にラファエラの顔が曇った。どう説明すればいいか困ったようだ。
ポツリポツリと語られた彼女の話から推測すると、神々を除く天界の住人は地上や魔界にさほど関心を抱いていない。差別や偏見と呼ぶほど見下してはいないが、尊敬もしない。自分とは関係の無いところで生まれ、いつの間にか死んでいく存在を、強く意識する者は多くない。
ポップ達が天界に赴いた時、住人の攻撃を受けなかったのも、彼らは何も知らなかっただけだ。
白き宮殿最深部の室内を沈黙が支配していた。
ダイは天帝の表情に既視感を覚えた。地上破壊計画を止められた時の大魔王の表情と同じだ。
天帝は一旦剣を鞘に納めたが、このままでは終わらせないだろう。嫌な予感がするため、ダイもバーンも警戒を解かず構えている。
「絆の力、見せてあげよう」
高らかに宣言し、天帝は空いた両手で耳をふさいだ。大きな音に備えるかのように。
「一人は皆のために。皆は一人のために。人身御供呪文」
突如、風が荒れ狂う。力の奔流が室内を駆け巡り、天帝に集約される。
今度現れた映像は地上ではなく天界のものだった。主が戦っているとは思えないほど穏やかに、各々の生活を営む姿が映し出される。力の嵐に合わせて映像がぶれるが、何の変哲もない日常が伝わってくる。
それが、壊れた。
精霊達が膝をつき、胸を押さえる。
彼らの顔が驚愕と恐怖に染まったのも一瞬のことで、輪郭が溶けて光と化した。球体の形状に収束した輝きが、戦いの場へ飛来する。
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