ハーメルン
【完結】Sorge il sole
第十八話 流星みた月虹

 天帝が常闇呪文を唱えた時から再び首飾りが働き、ポップ達に室内の会話を伝えていた。
 即座に空を見上げると太陽が徐々に影に喰われている。異変に他の者も気づいたが、天の弓と違ってどうすることもできない。
 天の弓の場合は有効な呪文や位置が明確だった。今回は防ぐ手立てがあるかどうかすらわからない。
 仮に防ぐ手段があったとしても、精霊達の命を消費しながら使用する呪文に抵抗できるのか。
 絶望という言葉に相応しい沈鬱な空気が室内を支配した。
 元魔界の地の者も、目にしたばかりの優しい光が失われていく様に呆然としている。
 彼らは太陽がもたらす恵みについて、正確な知識は持っていない。
 それでも感覚で理解している。とても大切なものが失われようとしていることを。失われてしまえば二度と戻らないことも。
 太陽に照らされてからのわずかな時間で、生命の源だと悟ったのだ。
「ちくしょう……ダイや大魔王が戦って、オレ達も天の弓止めるために飛び回って、その結果がこれかよ」
 うなだれるヒムに反論できる者はいない。このまま太陽が奪われ、世界が闇に覆われたらどうなるのか。その後絶大な力を得た天帝が攻撃してくるのだ。
「何か手はあるはずです。まだ、何か」
「考えろ……考えるんだ、止める方法を」
 諦めていないアバンとポップだが、笑みを浮かべる余裕はない。ラーハルトは唇を噛みしめ忌々しそうに己の槍を見つめ、マァムは涙ぐみ太陽を眺めている。
 その時、嘆きの声が上がった。声の主は大魔王の部下。
「何がバーン様の部下だっ! 肝心な時に役に立てぬ私など、道具ですらない……!」
 ミストからすればこの状況は苦痛以外の何物でもない。
 彼の身をちぎるような叫びが、ポップの記憶の片隅に引っかかった。
「待てよ……。役に、立つ……呪文!」
 本の山に埋もれた日々。
 先ほどの天帝の言葉。
 それらがかちりと重なる。
「あいつ言ってた、常闇呪文は補助呪文だって! 補助呪文には対になってるものがあるから、もしかして――」
「しかし、どんな呪文なのかわからないと唱えようがありません。何か手がかりがないと膨大な量の本から見つけだすことはできませんよ」
 二人は記憶の畑を高速で掘り返し、必死で脳に力を込める。太陽と言う単語に絞って意識を集中させる。
「……あっ!」
『なーにが皆の太陽、だ。馬鹿にしやがって』
『太陽と……補助呪文について書いてありますが、我々が使うのは難しいようです』
 アバンとポップは同時に顔を見合わせた。ポップが乱暴に扱った太陽の表紙の書物に、常闇呪文を防ぐ反対呪文が載っているかもしれない。


 全員は図書館に直行し、書物の山に挑みかかった。
 目当ての本を見つけ出し、読み進めていく。生命力を糧に発動し、発動者に絶対的力を与える常闇呪文と、対となる、影の進行を止める呪文。
 膨大な量の無関係の文章の中から発見し、震える指で辿る。
 通常、魔法を使うには儀式と契約が必要だが、天照呪文は常闇呪文に対抗するための呪文だ。常闇呪文が発動しているこの状況そのものが儀式の役割を果たす。
「太陽に向かって唱えりゃ、たぶん大丈夫」
「でもどうやってあれだけの力に対抗するの? 相手は天界の住人の命を使ってるのよ」
「それは妖怪ジジイの魔法を真似る! マホプラウスを応用して皆の力を集めれば食い止められるかもしれねえだろ?」

[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/4

[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク
携帯アクセス解析