第五話
リップシュタット貴族連合が結成されてしばらくたった四月、事態が急変した。
それまでガイエスブルク要塞に密かに結集しそこから枢軸陣営に決戦を挑む事を企図していたリップシュタット貴族連合であったが、ブラウンシュヴァイク公の麾下アントン・フェルナー大佐が独断でラインハルト暗殺計画を行おうとした。しかし、ラインハルトの居館の警備の厳重さに計画は中止され暗殺部隊は解散したが、その情報を入手したラインハルトはこれ幸いと、皇帝に貴族連合を反逆を企てた国賊として討伐の勅命を降すようにさせた上で、自身が帝国軍最高司令官の任に付きこの討伐の指揮を執った。
多くの貴族にとって寝耳に水の事態でありオーディンに残留していた貴族連合全体の三分の一、一ニ四〇名に上る貴族は拘束されてしまった。
何とか脱出した貴族達は這う這うの体でガイエスブルク要塞に辿り着き、安全な要塞内で金髪の孺子に対する悪態をついた。
ガイエスブルク要塞は帝国第ニの規模を誇る宇宙要塞であった。イゼルローン要塞が同盟軍に奪われて以降は、帝国最大の要塞となった。全長約四十五キロメートル、表面は流体金属が覆い、七億四千万メガワットの高X線ビーム【ガイエスブルク・ハーケン】を主砲とし他多数の砲台を装備している。内部は一六〇〇〇隻を収容可能な宇宙港、整備ドック、工廠、食料生産施設、居住区画、病院、学校、娯楽施設などを有し最早一つの都市であり、補給無しでも長期戦が可能な要塞である。
その堅牢な要塞内にあってもブラウンシュヴァイク公は落ち着かない。怒りで顔を赤く染めている。
「おのれ金髪の孺子め!!」
ブラウンシュヴァイク公はワインを一気に呷り、グラスを床に叩きつける。下級官吏の一月分の給金の価値があるグラスは粉々に砕け散る。
怒りで周りに当たり散らすブラウンシュヴァイク公に周りの者達は恐れて近づくことも出来ずにいる。
「ブラウンシュヴァイク公、どうか気をお鎮めください」
皆が怯える中、ブラウンシュヴァイク公の臣下アンスバッハ准将だけは何とか宥め落ち着かせようと試みていた。
「我が一門所縁の者が多く囚われたのだ!!落ち着いてなぞおられるか!!」
ブラウンシュヴァイク公の烈火の様な怒りの声を軽く受流しアンスバッハは言葉を続ける。
「なればこそ、当主たる公が範をお示しになり、動揺なさっている他の一門の方々を纏め上げるのです」
その言にブラウンシュヴァイク公は息を吐くと椅子に深く座り直す。更に落ち着こうとグラスに手を伸ばすが先ほど叩き割ったのを思い出し舌打ちをする。
「そうだな、ワシは名門ブラウンシュヴァイク公爵家の当主。このままでは歴代当主に顔向け出来ぬ」
アンスバッハが素早く差し出した代わりのグラスを受け取る。
「ご立派ですブラウンシュヴァイク公!」
「流石はブラウンシュヴァイク公だ!」
ブラウンシュヴァイク公の怒りが引いたと見た取巻き連中はここぞとばかりにブラウンシュヴァイク公を持ち上げる。アンスバッハはその様子に内心呆れるがおくびにも出さすブラウンシュヴァイク公のグラスにワインを注ぐ。しかし、酒の入ったブラウンシュヴァイク公は分かりやすいお世辞に気を良くしたのか笑みを零しその場の雰囲気が和らぐ。
「しかし、ブラウンシュヴァイク公、此度の孺子の動き妙だと思いませんか?」
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