とある配達員のバレンタインデー
「あ、ありがとうございます!」
「「「「……」」」」
モスティマが差し出したのは龍門であまりの美味しさに予約が1ヶ月待ちまであるということで有名なチョコであった。甘党のヤマトからしたら、喉から手が出る程欲しかった代物でもあり目を輝かせて尻尾を物凄い勢いで振りながら受け取っていた。
が、それを見て面白くないのはテキサス達だ。彼女たちとしては、朝に渡せなくて待っていたのにも関わらず、当の待ち人は配達先でほかの女からチョコをもらった挙句、モスティマからのチョコであの態度をとる始末。正直、不機嫌になるなというのが無理な話だ。
というより、いくら鈍感と言えどこれではヤマトはただのドクズ野郎と言えるだろう。
しかし、ただのドクズ野郎では終わらないのがこの天然たらしオオカミことヤマト。彼は「あっ」と呟くと、「ここで待ってて」とモスティマを含む全員にそう告げると貰ったチョコを抱えながら奥へ引っ込んでいき、そして数分後、戻ってきたヤマトが持っていたのは数個の少し大きめのカップケーキだった。
「えーと、これがテキサスさんので、これがエク姉。クロ姉はこっちでソラ姉はこれ。それで、モスティマさんのはこれです」
「え、ヤマトこれってもしかして手作り?」
「うん、そうだよ。昨日、皆が寝てから作ったんだ……一応、みんなの好みに合わせて作ってみたんだけど……どうかな?」
しかもそれはただの手作りカップケーキではなく、それぞれの味の好みを考えて作った物であった。例えば、テキサスであればチョコチップが混ざった甘めのカップケーキであり、ソラであればしっとりとしたバナナカップケーキであったりと言った具合だ。
そう、ヤマトは別に今日がバレンタインという事を知っていた。ただ、彼としては自分にとって大事な人(+とある人物)に渡したかったというのもあり、変に勘づかれないようにと夜遅くにキッチンに忍び込みこっそり作っていた。その結果が、寝不足というのがあるのだが。
「…へぇ、エクシアから聞いてはいたけど中々美味しいね」
「……ああ、美味しい」
「んー、やっぱりヤマトはんの手料理は絶品やな~」
「うん、確かに…って、それより!」
「はい、これは私からのバレンタインのアップルパイだよー!」
「エク姉ありがとう!……これ、もしかして手作り!?」
「うん!そうだよー!」
そんなヤマト手作りカップケーキを堪能している中、ソラが声をあげたと同時に一足先に気づいていたエクシアがバレンタインのために作ったチョコが入ったアップルパイをヤマトに手渡し、それを見たヤマトはすぐにそれが手作りであることに気がついた。
「エクシア、抜けがけするな。……手作りではないが私からはこれを」
「ウチも手作りじゃないけどチョコのバームクーヘンあげるで〜!」
「私は被っちゃったけど、カップケーキだよ」
「うわぁ…!」
そして、エクシアに続くようにテキサスはマカロン、クロワッサンはバームクーヘン、そしてソラは手作りのカップケーキとヤマトは大事な人達から貰った物を大事そうに受け取り、嬉しそうに顔をほころばせ。
「Wさんだけじゃなくて、テキサスさん達からも貰えるなんて全然思ってなかったよ!」
テキサス達にとって劇薬となることを、ついうっかりこぼしてしまった。
[9]前 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:2/4
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク