ハーメルン
郡千景と粘着質な愛の話
郡千景と少年の話(上)

 今、高嶋友奈の前には紛うことなく()()が立っていた。
 概ね千景のそれを踏襲しつつ、少年に合わせて有り合わせの布地を無理矢理縫い合わせたような、急場凌ぎと表現するしかない勇者装束を纏った少年が其処にいるのだ。

「どうして────?」

 受け止められていた。
 完全無欠に受け止められていた。
 ほんのちょっとでもつつかれたら倒れてしまいそうな程ボロボロな少年が、確かに友奈と手を重ねたのだ。
 現に友奈のガントレットに覆われた五指は、少年の指抜きグローブを嵌めたそれと絡み合っている。
 どうあっても否定しようのない現実だが────それ故に恨めしい。

「なんで、変身しちゃったの……?」

 友奈の問い掛けはあまりにも悲痛で、切実だった。
 今にも決壊しそうな己をギリギリの所で抑え、決意と使命感だけを支えに両足を突っ張る悲壮な少女の姿が其処にある。
 絶対に、この場で膝を折る訳にはいかないのだ。
 なぜなら────

「勇者に変身するって事は、バーテックスと戦わなきゃいけないって事なんだよ?」
「分かってる」
「ううん、分かってない。キミはぐんちゃんの気持ちを分かってないよ」

 勇者に変身する事が何を意味するのか、少年は理解していない。
 仮にだ。
 仮に少年が千景の心を救って、千景が少年と共に再び歩み出せたとしよう。
 だがその先にあるのは残酷過ぎる現実である。
 実際に変身してしまった以上、人類を守る為なら恐らく()()()し得る大社が少年を放っておくとは到底思えないのだ。

「……死んじゃうよ、これじゃ」

 激しさを増す戦いの中にマトモな訓練を受けていない少年が今更参戦した所で、待ち受けているのは当たり前のような「死」だ。
 況してや片目が見えないというハンデを抱えた人間を戦わせるなんて、友奈は大社の正気を疑いすらした。
 これでは重傷者に貧弱な武器だけ持たせて戦地へ送り込むようなモノだ。
 それは少年に「死ね」と言っているに等しい。
 そして言葉通りに少年が死ねば誰が悲しむのか、この場に集った3人こそよく理解しているだろうに──

「ぐんちゃんを悲しませるつもりなの?」
「僕は死なないし、千景も助ける。その為に僕は此処にいるって、友奈も分かってる筈だ」
「キミこそ……!ぐんちゃんを勇者に縛り付ける事が1番良くないって、『勇者』が全部悪いってどうして分からないの!?」

 千景は勇者などと言うおぞましい役目に呪い殺されるべきではない。

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