僕とどうしようもない話
「僕、は!っ負けたく、ない!嫌だ!うぅ……嫌だぁ!」
白熱した頭が思考を奪って、呼吸のリズムすらおかしくする。
過呼吸だ、と脳で理解していても「正しい自分」に戻れない。
早く、はやく薬をのまないと。
「嫌、だ。嫌だ嫌だ嫌だ!いやだぁ……いやだよぉ……!」
苦しくて。
どんどん、弱くなって。
なのに蓋は開かなくて。
視界がぐらぐらして、気持ちわるい。
ちがう。もっと、もっと大切なことがあるはずなのに何をしてるんだ。
「……?」
あれ?おかしいな。
なんで床に寝っ転がってるんだ。
これじゃあ風邪引いちゃうよな。
千景にも迷惑をかけてしまう。
そうだ、千景だ。
こんな所で寝てる場合じゃない。早く起きないと。
でも、なんだか、とっても眠くて────
■■■
「────あ」
「……起きたのね」
焦げ茶色の瞳が此方を覗き込んでいた。
普段通りの、憂いを湛えた優しい千景の瞳だった。
……あれ?どうしてベッドで寝てるんだっけか。
確か今日は千景が四国に戻ってきて2日目で、テレビを見ていて、それで────それで?
「えっと……」
「あなた、リビングで倒れてたのよ。私がいなかったらどうなってたか……」
そうだった。
パニックになって倒れたんだった。
だとすれば千景がベッドまで運んでくれた訳か。
勇者の勤めで疲れているだろうに、千景に手間をかけさせるとは情けない。
「ごめんね。迷惑掛けたでしょ」
「……別に。それより、この瓶なんだけど」
「それは──」
「薬よね、天恐の」
反論を許さない、固い口調だった。
言い訳なんて聞きたくない、と言いたいんだろう。
まあ確かに彼氏がこんな隠し事をしていれば責めたくなるのも当然か。
「知ってたんだ」
「ええ、もちろん。私はあなたの事なら大体知ってるつもりよ」
「そっか……」
僕程度の浅知恵はお見通しらしい。
だとすれば、ずっと知ってて知らない振りをしてくれてた事になる。
……すっごい申し訳ないなぁ。
「ごめんね、強がりに付き合わせちゃって」
「……私は嬉しかったわ。3年前から、私1人の為に戦ってくれるのはあなただけだから」
100人中99人に馬鹿にされても、君が肯定してくれるならきっとそれが正解だ。こうして君が喜んでくれたなら、僕の自滅行為も少しは報われた気がする。
これなら、もう一踏ん張りやれるかな。
「ならさ。ついでにもうちょっとの間見なかった振りしててくれない?」
「それは嫌。このままじゃあなたが保たない」
「だけど──!」
「もっと自分の事を考えて。私はこれ以上弱ったあなたを見たくないの」
取り付く島も無い、直球で適切な拒否が返ってきた。
確かに、誰がどう見たって千景の方が正しい。君は心の底から僕の心身を案じてくれている。
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