ハーメルン
銀子ちゃんを可愛い可愛い×5するだけの話(+短編集)
短編 天地創造宇宙開闢空銀子
好きな人と会う事が出来ない、という状況。
これは多かれ少なかれストレスの原因になるなぁ、と最近の俺は強く実感している。
「へぇ、好きな人?」
「うん」
そう、好きな人。
俺の大切な恋人、空銀子。銀子ちゃん。
今ここに銀子ちゃんはいない。ある日突然いなくなってしまったんだ。俺の隣から。
「それから一度も会っていないの?」
「うん……」
去年の暮れ頃のこと、公に休養宣言を残してそのまま彼女は消息を絶った。
そして今に至る。それが世間一般の知る空銀子の現状だろうが、銀子ちゃんの恋人である俺でも実情としては世間一般と大差無かったりする。
要するに突然の休養宣言の真相とか、体調不良が原因らしいが実際のところはどうなのかとか、一番気になるであろう復帰の目途とか、そういった事は俺も何一つ聞かされていない。
「それ、あんたは気にならないの?」
「そりゃ気になるよ。気になるけどさ……」
さすがに誰も知らないという事は無く、桂香さんや師匠はある程度事情を知っていそうだった。
だから知る方法がない訳じゃなかった。俺が本気で知りたいと望めば強引にでも聞き出す方法はあったんだろうけど……でも、そうはしなかった。
だって、銀子ちゃんは必ず帰ってくるから。
そうと心に固く刻んで、俺はあの子の帰りを待つことにしたんだ。
……が。
「……あー、会いたいなぁ、銀子ちゃんに」
ぽつりと零れた本音。
弱音にも聞こえるそれを聞き逃がしてはくれなかったのか、すぐに反応が。
「会いたいんだ?」
「そりゃ会いたいよ……会いたいに決まってるでしょ」
会いたい。そう、会いたいんだ。
俺は銀子ちゃんに会いたい。もう切実に会いたいよ、本当に。
待つと心に誓ったけど、それで会いたいという気持ちまでもが無くなる訳じゃないんだ。
だって俺と銀子ちゃんは恋人同士なんだから。
そうでなくとも、幼い頃からずっと一緒にいた相手なんだから。
「ていうかね、そんなに会いたいんだったら会いに行けばいいじゃないの」
「いやぁ……そういう訳にもいかないよ。相応の事情があっての事だろうし」
もう何度も自問自答した回答、俺は自分を納得させるように呟いた。
今、会いに行くのは最善手ではない。以前に桂香さんからは時間が必要だと言われた、暗に今は会うなと言われているようなものだ。
当時は苦々しく飲み込んだ理屈も今なら一応理解は出来る。だって突然連絡も無しに消息不明になるなんて普通じゃない。普通じゃない事が起こったんだから、そこには普通じゃない理由があるのだろう。
「それに会いに行くったってさ、そもそも銀子ちゃんが何処にいるのかだって俺は知らないし」
「でも……向こうだってあんたと会いたがっているかもしれないじゃない」
「銀子ちゃんが? それは……どうだろうね」
たとえ離れ離れになっていようとも、想いは同じだといいな、とは思う。
俺と会えないこの状況に、銀子ちゃんも寂しいと感じていて欲しい。とは思うけど。
しかし、じゃあ実際に会いたがっているのか──って考えると、それはなんだか違う気がする。
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