ハーメルン
銀子ちゃんを可愛い可愛い×5するだけの話(+短編集)
4. JKの話
──こうして。四人の私と八一との共同生活が始まってしまった。
……この字面だけでもう意味が分からないわね、ほんとに……。
私の名前は空銀子。
先日三段リーグで昇段を果たして、四段となったばかりの新米プロ棋士である。
そして八一が勝手に『JK銀子ちゃん』と呼ぶ事にしたらしい私、つまりは高校生の私だ。
そんな私を含む四人の私がここには居て、そしておまけに八一が一人。
……まぁね。確かにこんな光景が現実で起こり得る訳がない。多数決で決まった通り、これは私が見ている夢か何かなのだろう。
これが夢だと自覚しながら見ている夢、たしかそれを明晰夢って言うんだっけ?
生憎と私は明晰夢を見た記憶が無いからなんとも言えないんだけど、けれどもこれは明晰夢ともちょっと違うような気がしている。
だってこの夢はあまりにリアルだ、あまりに強い現実感がある。目の前にある全てから伝わる感触、不確かなものではないその鮮明さを感じる度にこれが夢だなんて思えなくなる。
……いやいや、分かってるわよ? 分かってはいるんだからね?
さっき八一も言っていたけど、これは夢であって決して現実じゃない。
けど……正直八一の言い分もあやしいというか、今のあいつの思考はなんていうか……。
「ねぇ八一」
「ん? なに、JK銀子ちゃん」
「寝具の話題ついでに聞いておきたいんだけど。あんた今日ここに泊まるのよね?」
「うん、そうだけど」
──だってせっかくの銀子ちゃん四人を逃す手は無いよねっ!
との心の声が聞こえたが今は無視する。今重要なのはそちらではない。
「一応聞くけど……明日は?」
「明日? 明日も泊まるけど?」
「なら明後日は?」
「そりゃ明後日も泊まるけど? というかこの先ずっとここに泊まりますけど?」
「でもあんた家にあの小童がいるじゃない。そんな何日も放っといていいわけ?」
「うん、大丈夫大丈夫」
「……ていうかあんた対局の準備はいいの? そろそろ竜王戦の──」
「うん、そっちも大丈夫大丈夫」
「……大丈夫大丈夫って、どうしてそこまで断言出来るのよ」
「え、だってこれ夢だし」
八一はあっけらかんとした顔で答える。
その答えは確かに間違ってはいない……とは思うんだけど、あまりに訳分からなすぎて全てを夢に丸投げしているだけのようにも聞こえる。
というかこのバカ、私が四人居る状況に浮かれすぎてまともな思考を失っているんじゃ……。
「え、ちょっと、ちょっと待って」
とその時、別の私が──中学生の私が、JCの私がその口を開く。
「泊まるってここで? ここで全員眠るの? その……八一も!?」
「そりゃそうでしょJC銀子ちゃん。他にどこで眠るってのさ」
「け、けどっ、ここってこのリビング一部屋しかないじゃない!」
「そりゃここワンルームマンションだし。ねぇJK銀子ちゃん」
「……なに? こんな狭い部屋を購入した私が悪いとでも言いたいの?」
この部屋は八一の言う通りワンルーム、5人で泊まるのにはかなり手狭な造りをしている。
けれどそもそもこの部屋は将棋の研究用に静かな場所が欲しかったから購入しただけで、なにも住居にするつもりで購入した訳では無い。
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