ハーメルン
銀子ちゃんを可愛い可愛い×5するだけの話(+短編集)
2. 四人の話
黒のセーラー服。
白のセーラー服とは違う、その制服は3年間見てきた俺にとっても懐かしさを覚えるもので。
「やっぱり、君は中学生の銀子ちゃんなんだね。通りでちょっと小さくて幼いなと思った」
「む」
ちょっと小さくて幼い。
その言葉が気に触ったのだろうか、目の前に居る銀子ちゃんの眉がぴくんと動く。
「私が中学生で悪い? 何か文句でもあるの?」
「も、文句なんて無いよ。ただ何処となく違和感があったからさ」
「違和感……ていうか、それじゃあ後ろに居るその私は……察するに高校生、なの?」
「……えぇ、そうよ。私は高校生の空銀子。……自分に自己紹介するのってなんか変な感じ」
お互いに不思議そうな表情で顔を合わせる二人の銀子ちゃん達。
その内俺の後ろに居るのが高校生の銀子ちゃんで、俺の前に居るのが中学生の銀子ちゃんで。
……ふむ、なるほどな。
二人の銀子ちゃんの違いが分かった事で、このおかしな状況が何となく理解出来てきたぞ。
本来この場にいるのは高校生の銀子ちゃんだけなはずだ。それなのに本来居るはずのない中学生の銀子ちゃんまでもが同時に存在しているという事は……これは……読めたっ!
「あ、じゃあクローンとか分身じゃなくて、過去の銀子ちゃんがタイムスリップしてきたって事か。なぁんだそういう事か」
「なぁんだ、ってあんたそれで納得出来るの?」
「ははは、まっさかー」
出来ないっすね。タイムスリップだろうが十分におかしいっすね。はい。
けどクローンも分身もタイムスリップもボツだとすると、もうこの状況を説明する適切な言葉が思い付かないんだよなぁ……。
……と俺がそんな事を考えている間にも、次第に二人の銀子ちゃんの様子が変わり始めてくる。その表情、その声色が段々と暗くなり始める。
「タイムスリップだか何だか知らないけど……こんなの普通じゃない、あり得ないわ」
「……ほんとうにどういう事なの? 意味が分からないんだけど……」
自分が二人居るという奇怪極まりない状況、どうやらそれを怖く感じてきてしまったのだろう、二人の顔には共に不安の色が混じっていた。
これはよくない兆候だろう。こんな訳の分からない状況なのに、二人がパニックになっちゃったらそれこそお終いだ。俺は二人の銀子ちゃんを安心させる為、努めて普段通りの声色で口を開く。
「あのさ。ここに銀子ちゃんが二人居る理由、それは考えても分からなそうだから一旦置いておこう。そんな事よりもとりあえず……」
「……とりあえず、なに?」
そう、とりあえず。
「とりあえず……将棋しない?」
「……そうね」
「……うん」
俺の提案を受けて、二人の銀子ちゃんがゆっくりと頷く。
やっぱりこういう時は兎にも角にも将棋盤に向き合うのが一番。全ての答えは将棋盤の中にある……とまで断言する事は出来ないけど、少なくとも気分は落ち着くからね。
これが将棋指しにとっての正常化バイアスの結果と言っては駄目かもしれないけど、俺達は半ば現実逃避気味に一局指す事にした。
「でも八一、私達三人しか居ないわよ。あんたが2面指しでいい?」
「うん、いいよ。というか中学生の銀子ちゃんって棋力も中学生の頃と同じなのかな?」
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