ハーメルン
銀子ちゃんを可愛い可愛い×5するだけの話(+短編集)
9. おしごとの話



 ──ばたんっ! 
 と閉じられた引き戸の前に、ベランダに残る私は呆気にとられる。

「……逃げたわね。年上のくせに……」

 なんとも情けない高校生の私の姿に、中学生の私は「……はぁ」と大きなため息を吐く。
 ……まぁね。確かに話の内容がアレな事だし、恥ずかしいと思うのはそうなのだろう。というか尋ねた私だってめちゃくちゃ恥ずかしかったし。

 けれどもあの逃げ方は無いわね、うん。
 年下との会話で恥ずかしがって逃げの一手では『浪速の白雪姫』の名が泣くというものだ。
 
「……というか、あそこまで恥ずかしがるような事なのかしら」

 どうなのだろう。あのJK銀子の恥じらい様は高校生として、女性として普通の姿なのか。
 そりゃ全く羞恥を抱かないという事は無いとは思うんだけど、年下の、それも自分自身に打ち明ける事すらあそこまで照れてしまう事なのだろうか。

 ……分からない。なんせ私には経験が無いから。経験がない事は知りようがない。
 ……ん? でもそうなると、JK銀子は経験があるからこそ恥ずかしがっているって事……?

「……まぁいいか。保留にしとこう」

 こればっかりは想像の域を出ないので、私はこれ以上考えるのを止めにする。
 JK銀子の捨て台詞の通り、今度機会があったら八一の方に聞いてみようかな。案外そういう事は男の人の方が話しやすいかもしれないし。

「それにしても……色々、凄かったな」

 八一の方から、それも実家でのロマンチックさ満点の告白とか、すでにキスしちゃってる事とか。
 高校生の私と18歳の八一は随分と進んでいる。随分と……深い仲になっているらしい。

 ……いいな。羨ましいな。
 私だって、この私だって……八一を好きな気持ちは同じだ。それが自分の将来の事とはいえ、羨ましいなと思う気持ちは抑えられそうにない。
 特に八一が、あの八一が私に恋心を向けてくれていたのだと知った今では、尚更──

「……くしゅんっ」

 そんな事を考えているとくしゃみが出た。
 私は思わず両の二の腕を擦る。どうやらベランダに居すぎて身体が冷えたようだ。

「……私も戻ろ」

 そうしてベランダの引き戸を開く。

 だがその刹那。
 先程の出来事を頭の中でもう一度回想して──

 ──私は高校生になってもああはなるまい。 
 終始ふにゃふにゃで弛んだ表情をしていた高校生の私を反面教師として、決してああはなるまいと中学生の私は深く胸に刻んだのだった。



 ■



 ……はぁ。全く……。
 ほんとに中学生の私にも困ったものね。ていうかほんと中学生のくせにあんな事……。

 ベランダでの会話を一方的に打ち切って。
 そうして一足先にリビングに戻って、私はふぅ、と一息つく。
 
「あ、JK銀子ちゃん。JC銀子ちゃんとの話は終わったの?」
「……まぁね」
「……ん? どしたの?」

 すると将棋盤の前に居た二人。JS銀子と指導対局をしていたらしい八一の顔をじーっと睨んで。

「……ばか」
「え、なにいきなり。俺、何かした?」
「……さぁ? 自分の胸に聞いてみなさい」

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