非日常編
俺達は暫く2人の遺体を見つめていた。
誰も声を発さなかった。
10人もの人間がいる中、その目の前で2人は死んだのだから。
「…捜査をしよう。」
祇園寺がぽつりと言った。
でも、その声は皆に聞こえるくらい大きかった。
俺達はその声にハッとし、急いで服を替え、捜査を始める。まずは遺体を確認だ。
遺体の側には、1人捜査をする御伽の姿。
元々この劇を提案したのは御伽だ。なにも気にしてないといいが…。御伽のことだ。きっと気に病んでいるだろう。
俺は最大限気を遣いながらそっと声をかけた。
「あー…御伽。大丈夫か…?」
御伽は顔を上げると、片手でリボンを触り、口を開いた。
「私が劇なんて言わなければ……。ですが…私は前を向かなきゃって思ってるんです。みなさんの死を乗り越えて、頑張らなきゃって思うんです。」
御伽は、一度目を伏せた後真っ直ぐ前を向いて笑ってみせた。
今まで自分を卑下したり、消極的な態度が目立つ御伽だったが、何かが彼女の中で変わったのかもしれない。
「そうだよね、その意気だよ御伽さん。」
「あぁ、一緒に頑張ろう。」
御伽は真剣な顔で頷いた。
「そういえば、御伽は差し入れの飴を配ってたよな?それって皆口にしたのか?誰が受け取ってないとか、覚えてるか?疑ってるわけじゃねーけど、教えてくれ。」
「いえ、構いませんよ。」
優しく首を振り、こう答えた。
「飴を受け取ってないのは砂切さんだけです。」
月陰は穏やかな顔で、砂切は少し歪んだ顔をして死んでいた。恐らく、棺の中でもがいたのだろう。少しだけ中の花や布が乱れていた。
「ずっと舞台の端にいたから、よくわかんねーけど、この棺の蓋って閉じられてたのか?」
近くにいた片倉が答える。
「あ…蓋は閉じられてたよ。ほら、やけに丈夫なガラスの蓋。モノアピスも変なところにこだわるよねぇ…。」
蓋は閉じられていたため、毒でもがき苦しんでいたとしても、声は届かないのだろう。
口からは血が流れているが、目立った外傷はない。2人揃って毒殺だろうか。
同じタイミングで死んでいるから、恐らく死に発展したのは同じ原因の筈。
2人が共通して口にした、もしくは触れたものなど何か見つけられたらいいのだが…。
棺の周りをよく見渡すと、月陰の遺体のすぐ足元に何か光るものがあった。
「なんだこれ?」
手に取ったそれは、なんらかの宝石だった。月陰の私物だろうか。
「それはオパールだな。」
声をかけてきたのは仍仇だった。
「仍仇…。なんでそれを?」
「よく、宝石を教えてもらっていた。」
横目でチラリと月陰を見ると、淡々した口調で答えたが、それ以降口を開くことはなく、仍仇はどこか別の場所へ行ってしまった。
「それ…月陰さんのだよね?」
「あぁ、でも衣装にはついてなかった筈。最初から持ってたのか?」
「宝石言葉でよくものを伝えていたから…。もしかすると、何かぼく達に伝えたいことがあったのかも。」
俺達はすぐに図書館に行った。
大概の調べ物は此処で済ませられる。きっと宝石言葉についても本があるだろう。
月陰が何を伝えたかったのか。
どんな意図をして、わざわざそれを落としたのか。知りたかった。
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