???
「はやく!れいちゃんのとこに行かなきゃなの!」
更衣室の中、少女は息を巻きながらラッシュガードのジッパーを下ろす。小さな体で着替えるというのは結構大変だ。
タオルでわしゃわしゃとよく頭を乾かし、元々の制服に腕を通す。ちょっぴり髪の先が濡れているがそんな事は今はどうでもいい。
走る。
彼が1人で過ごしているであろう場所へ。
「まっててねれいちゃん!」
海老塚志々水は糸針緋巴銉からの話を聞き、すぐに水波零の部屋へと向かった。
ノックをする事も忘れ、勢いよく扉を開ける。
中には、驚いた顔で車椅子に座る水波の姿があった。
「大丈夫なのっ?しじみ、れいちゃんのこと心配で…。」
「海老塚さん…。」
心配だ、という心ひとつで訪れたようだ。
「えーと、…わざわざありがとうございます。」
「ううん!でもしじみ何も考えてこないで来ちゃったから…。」
「僕は何も求めないですよ。…来てくれるだけで、嬉しいです。」
海老塚はそれを聞くと嬉しそうに三つ編みを揺らした。
「ん〜、やっぱりこれだとつまらないの?」
「車椅子だとできることも制限されますし…。確かに退屈ですね。」
海老塚は何かを考える仕草をする。暫く目を閉じてう〜んと声を漏らした後、「そうだ!」と目を輝かせた。その一連の流れを水波の方はというと不思議そうに見つめている。
「しじみ、いいこと思いついたから、ちょっとまっててほしいの!」
水波の返事も待たず、海老塚はまた軽やかな足取りで部屋を出て行ってしまった。
なんだったのだろう。
水波は更に不思議そうだ。
それからしばらく経った。20分は過ぎただろうか。
コンコン
今度はちゃんとしたノックの音。
水波は「はい。」と返事をした。
「お待たせなの!」
「随分遅かったですね…?一体何を…。」
「ふふ〜ん、じゃーん!」
「…これは…」
「折り紙、ですか?」
海老塚が差し出したのは折り紙。きっと倉庫から探してきたのだろう。でも何故…?と怪訝そうな水波に海老塚は続けて言う。
「れいちゃんが寂しくないように!ここに水族館を作ろうなの!」
海老塚の無邪気な笑顔。
それにつられるかのように、皆の前で笑う事が少なかった水波が初めて柔らかい笑みを見せた。
「ありがとうございます。…作りましょうか。僕達だけの水族館。」
チョキチョキ ハサミを使う音。
ガサッ 紙を折る音。
そして海老塚の笑い声。
「これはカニさんなの!」
「じゃあこれは鮫ですね。」
「わぁ!うーん!イルカさんも作りたいの〜!」
穏やかな部屋の中、水波の心臓だけがドクンドクンと揺れていた。
殺すか否か。
こんな優しい海老塚さんを?
彼女を殺して何が残る?
僕の唯一の生きがい?
人生?
海老塚さんの命と僕の命…
もう二度と泳げなくなる。
早く特効薬を投与しなければ…。
僕も死ぬ。
いずれ……皆死ぬ。
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