第17話【千里眼】
図書館島の初探索から少し時間が進んだ翌週の月曜日。学校に登校した千雨は普段とは異なる教室の空気に違和感を覚えた。
朝からざわついているのはいつものことなのだが、会話に耳を傾けてみるとクラスメイトの多くが特定の話題を口にしているのだ。
同級生になって1週間ちょっとしか経っていないが、この手の情報の出どころが誰なのか、千雨には心当たりがあった。
千雨は自分の席に荷物を置くと、その足で入学直後から報道部に入部して入り浸っている自称麻帆良のパパラッチのもとに向かった。
窓際の席に向かった千雨は、椅子に座って小型のデジタルカメラを操作している赤に近い茶色の髪を後ろで束ねて、前髪をシンプルなヘアピンで留めている少女──朝倉和美に話しかけた。
「なあ朝倉、これは何の騒ぎなんだ」
「どうやら入学が遅れてた子が、このクラスに来るみたいなんだよね」
「病気にでもかかってたのか?」
「いやー、そういうわけではないっぽい。
しずな先生の話だと相坂さんじゃなくて、クラス名簿に載ってない子なんだってさ」
「つまり実質、転校生みたいなもんってことか。ありがとな、朝倉」
「これぐらい大したことじゃないよ。それより図書館島で何か面白いもの見つけたら教えてよね」
「それは構わねーけど、あんまり期待しないでくれよ。浅い階層は調べつくされてるからな」
千雨たちが図書館探検部に入っているのは周知の事実のため、朝倉も当然把握している。
先週末には図書館探検部のメンバーたちと一緒に少しだけインタビューも受けている千雨は、ひらひらと手を振りながら朝倉に別れを告げた。
図書館島の風景はニュースにこそならないが、風景写真の特集を組むのなら見栄えがいい題材である。
図書館探検部と報道部を兼任している生徒はいないため特集が組まれる機会は限られており、外部にあまり広まらない図書館島の情報はそれなりに価値が高い。
千雨単独ならば最深層まで潜ることも不可能ではないだろうが、念の為に近右衛門に連絡を取った際に、潜るのは構わないが地下12階以降の情報は口外しないでくれと言われていた。
そのため図書館探検部の活動で見つけた内容はともかく、千雨が単独で潜った内容を朝倉に提供することはないだろう。
その上、千雨は近右衛門から図書館島の深層を管理している白いローブを着ている司書の指示にはできるだけ従ってほしいと言われている。
詳細こそ伝えられなかったが白いローブを着た個人、あるいは集団こそが図書館島の安全管理を担っている魔法使いなのだろう。
図書館探検部に伝わる噂話の中には、高所から落下したのに気がついたら地下1階まで戻っていたという話や、階段から転げ落ちて骨折したはずなのに怪我が治っていたという話が残されている。
にわかには信じがたい内容なので本気にしている部員は誰もいないが、おそらくは魔法使いが密かに助けていているのだと千雨は考えている。
事故の記憶を完全に消すこともできるだろうが、記憶に残しておかなければ同じようなミスをする可能性があるので、あえて部分的に記憶を消して夢だと思わせているのだろう
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