PART12 処刑は嫌です
御前試合は流石に中断となった。
わたくしは右の拳をさすりながら、コロシアムの円形外壁に背を預ける。
そのままずるずると座り込みそうになるのを、気力で必死に留めた。悪役令嬢はそんなダサいことはしないのだ。
「……まさか聖女に悪魔が取り憑いているとはな」
「気を失っているようですが、どうします」
近衛騎士たちが聖女を担架に横たわらせながらも、拘束用の護符鎖を片手に相談していた。
「ああ……恐らく悪魔なら消し飛んでいますわ」
「何?」
水差しを持ってきてくれていたロイが訝しげにわたくしを見た。
「悪魔が人間を乗っ取るというのは、原則として悪魔は現世では実体を持たないからだ。中には実体を顕現させるほど強力な個体も居るらしいが……基本的には精神体だろう。どうやって干渉するんだ」
「なんといいますかこう……神聖なパワーで、ぶわーっと」
「言葉選びがもう神聖さの欠片もないな」
実際問題、拳をぶち込んだ際に妙な感触はしたのだ。
肉体をぶん殴っている感じはまるでしなかった。確かに頬へ拳が接触したし、身体を吹き飛ばしもしたが。
「威力の大半が、別の位相に吸い込まれるような感じがしましたわ」
「……道理でね。本当に禁呪相当の力を当ててたなら、聖女様の身体、一片たりとも残ってないはずだもの」
すぐ隣に立っていたリンディが頷く。
それからわたくしの顔を覗き込み、嘆息する。
「驚いたわ。まさか禁呪をモノにしてるなんて……というかもしかして、普段使いしてる『流星』も禁呪の改変かしら」
「ええ、そうですわね」
「絶句ね。禁呪を改変するなんて正気?」
「全然絶句してませんわね」
「うっさいわね! 驚きの表現よ! 本当に黙ったら何も分からないままになっちゃうじゃないの!」
一通り騒いでから、しかしロイとリンディはまだ解せない様子だった。
「もしそうだとして、禁呪同士の激突の後に、もう一発禁呪を打ったってこと?」
「いいえ、禁呪を二重に詠唱していただけですわ」
「ごめんもう一回言ってくれるかな?」
《box:absolute(0/0),lh2.5,z9》「禁呪を二重に詠唱していただけですわ」 「禁呪を二重に詠唱していただけですわ」《/box》
「何度聞いても意味が分からないわね……」
実践までしたのに、理解力のねえ奴らだな。
〇木の根 これ理解力の問題か?
〇鷲アンチ こいつの協調性の問題
〇外から来ました ツイッターで「勉強してからリプしてください」とか言ってそう
最後のやつマジで覚えたからな。
わたくしが内心でキレ散らかしていると、砂利を踏む足音が聞こえた。
顔を上げれば、王子や教皇たちがコロシアムに降りてきていた。国王は玉座に腰掛けたままだ。
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