皇帝の卵と暴風竜
ルドラがギィへの挑戦に向かってから暫く。
ルドラがギィへの名付けを行ったとかいうふざけた話を聞きながら、ヴェルディアスは自分の弟子であるアリーシャの修行を見ていた。膨大な存在値を誇る竜種というのは力任せになりがちだ。それはヴェルディアスの弟である『暴風竜』ヴェルドラが証明していた。
そんな中、ヴェルディアスは前世が人間であったという過去を持つ。前世も圧倒的なまでの力を持っていたが、その本質を支えていたのは鍛え上げた技量だ。さらに、竜種となったことで広がった戦略によって戦闘技術は更に向上していった。故に、覚醒勇者たるアリーシャを持ってすら、ヴェルディアスには届かなかった。
「お爺様、修行は終わったのですか?」
「おお、エルメシア。今日も来たのか?別に俺は構わないが、ミュリアが怒るんじゃないのか?」
「お姉さまは頭が固いですから。私は当主になんてなりたくないんです」
「はははっ。まぁ、それも自由だ。己の為したい事、己のやるべき事は己の意思によって定められるもの。エルメシアが継ぎたくないと言うのなら、それはエルメシアの自由だ」
アリーシャとの修行を終え、自宅に戻るとそこにはエルフの少女――――後に魔導王朝の皇帝となるエルメシア・エル・リュ・サリオン――――がそこにはいた。ヴェルディアスが最初に保護したエルフの青年の妹の娘であり、ヴェルディアスには祖父のように懐いていた。
本来は不敬と言わざるを得ないのだが、ヴェルディアスがそれを許したことで特別に不問とされた。それを良いことにエルメシアはヴェルディアスの許を頻繁に訪れていた。ヴェルディアスも自分を恐れることのないエルメシアを歓迎し、本当に祖父と孫のような関係になっていた。
「では、お爺様からお姉さまに言ってやってくださいよ。私に当主を引き継がせるのなんて諦めろ、って」
「俺がそう言うのは簡単だが、周りは納得しないだろ。ミュリアはお前に『智略の星神』を引き継がせたいようだからな。事実、俺の目からすれば、エルメシアはあの力を継げるだろうしな」
『智略の星神』は『星神之王』から派生した究極贈与の事であり、ヴェルディアスと何かしら魂のつながりを持つ者に与えられる力の一つである。エルメシアの実家を始めとしたいくつかの家に配られ、今日まで継承され続けてきた力である。
「もうお姉さまが継いでいるのだから、それで良いじゃないですか?なんだって、わざわざ……」
「まぁ、悩めよ若人。俺はどちらの味方をすることもないが、その果てに出た結論は肯定するからな」
「お爺様もどうしてあんな力を渡したんですか?今じゃあ、あの力を持ったら家を継ぐのが当然みたいな風潮があるんですよ?」
「はっはっは。流石にそれは知らないな。お前たちが究極能力を得たのは、お前たちが求めたからだ。俺は、その求めに応じたに過ぎない。それに、究極能力は得て終わりじゃない。使いこなせなければ、何の意味もないさ」
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