9:子供先生の赴任初日 ―夜― 3
― エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル ―
学園長室での会話を切り上げ、私とじじいは教室に向かっている。
「相坂さよか。蒼月潮はあいつが見えるのか?」
「そうらしいの。ワシにはめったに見えぬのじゃが。法力僧も僧侶じゃし、幽霊関係については専門家のようなものなのかもしれんのー」
「それもそうか」
相坂さよ。
私がこの麻帆良に閉じ込められるかなり前からこの学校に縛られているらしい地縛霊だ。
別に人間に危害を加えるわけではなく、ただそこらにいるだけだ。
存在感が極度に薄く、私のクラスにはそれなりの実力者が何人もいるのだが、気づいているのは私以外にはおそらく一人だけだ。
私も他人と交流したいわけではないから見えていても無視しているがな。
話しかけても私にできることは何もないんだ。
なら余計な希望を与えない方があいつ自身のためだろう。
だが、蒼月潮にもあいつが見えているらしい。
ヤツがそれで何をするつもりなのかは知らんがな。
じじいの言葉に納得し、教室に急ぐ。
教室につくと、そこには見たことのない力と術式の人払いとおぼしきものが張られていた。
じじいはかまわず教室に入っていく。
「うしお君、相坂君、入るぞい」
「あれ? 近衛のじいちゃん、何しに来たんだい?」
「が、学園長先生。こ、こんばんは!」
「うむ。こんばんは、相坂君。今日はなんでかわからんが、相坂君のことが随分はっきりと見えるのー」
このまま私が教室の外で待っていてもじじいは気にせず世間話をしそうだから、私も教室の中に入る。
じじいは私をからかうことを楽しんでいるんだ。
まあ、それもアルビレオ・イマに比べればかわいいものだが。
アルビレオ・イマとはナギたちのかつての仲間で、悪ふざけが大好きな性格破綻者だ。
一応ヤツも最上位の魔法使いの一人に数えられている。
私に気づいた蒼月潮が声を上げる。
「えーっと…その子、一緒のクラスの子だよな?」
「エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルだ」
「オレは蒼月潮だ。よろしくな。お前の名字はマクダウェルでいいんだよな?」
「私は相坂さよです! よろしくお願いします!」
「そうだ。私の呼び名はエヴァンジェリンでいい」
「なんでわざわざ名前で呼べというのかねぇ…まあいいや。よろしくな、エヴァンジェリン」
本当はすぐにでも私の呪いを解く術があるか聞きたいところだったが、ぐっと我慢してまずは自己紹介をする。
相坂さよも自己紹介しているが、今の私にはそれにかまっている余裕がない。
私は早速本題に入ることにした。
「早速だが、蒼月潮。貴様、私にかけられている呪いを解くことができるか?」
「待て待て、エヴァンジェリン。突然そんなことを言われてもうしお君も困ると思うぞい」
「む…」
焦って聞く私をじじいが制止する。
一刻も早く聞きたかったが、じじいの言うことももっともだ。
呪いの正体も何もわからずに解けるはずがない。
焦り過ぎていたようだ。
だからなんとか心を落ち着けて事情を話そうとしたその時…
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