6話 歪んだ鏡
「単刀直入に言おう。貴様たち『騎士団』の中に裏切り者がいる」
「なに!?」
スネイプが前置きなしに放った言葉に、シリウスは瞠目する。
「まあ、吾輩が闇の帝王を裏切ったわけだから、ある意味痛み分けだな」
そんな皮肉げなスネイプの言葉は無視しつつ、シリウスはその「裏切り者」が誰かについて思いを馳せる。その上でほぼ無意識に呟いてしまった内容が、スネイプの耳に届いた。
「まさか、本当にリーマスが……?」
「なに?」
今度はスネイプが訝しがる番となった。まさかこのタイミングでその名前が出てくるとは、予想だにしていなかったので、こちらも反射的に声を出す。
「待て、今の言葉はどういうことだブラック」
「……聞こえていたのか」
「そこはどうでもいい、なぜ今リーマス・ルーピンの名前を出した?」
「………違うのか?」
「よもや、な。………これは人選を誤ったか」
そのシリウスの声を無視し、スネイプは何やら思案に入る。そうした思いがけぬ姿に却ってシリウスは自分が取り返しのつかないことを口走った事実に気付く。自然、あげる声も大きなものとなった。
「待て、話を聞け! リーマスが裏切り者というわけではないんだな!?」
「吾輩としては、お前がそうした考えを抱いていた事こそが驚きだ。………呆れたな、散々吾輩に友情の尊さだの素晴らしさだのを自慢していた貴様が、その様とは」
そう言い放ったスネイプの目には、明確に侮蔑の色が浮かんでいた。そして、もはやシリウスはその目に反抗する気力を失いかけていた。今スネイプが言ったとおり、彼は学生時代常に孤独であった少年スネイプに「いつも一人ぼっち」「歪んだ性格のせいで友達がいない」と散々馬鹿にしていたのだ。
だが、いまやシリウスこそが友人を疑っている。それもかつて永遠の友情を誓い合った友を、だ。
自分が『他のブラック家の人間』たちと大差ない行いをしていたことに気付いた時と同様、これまでは特に気付かなかったが、一度気づいてしまえば愕然とした思いになる。いったいいつから自分は『友を疑う自分』に違和感を持たなくなっていたんだ?
シリウスの視界がぐらりと揺らぐ、これまで自己を自己たらしめてきた骨子に重大な亀裂が走った音がし、まるで地面が飴細工になったように不確かだ。誰かが沼化の呪文でも遣ったと言ってくれればどれほどマシか。
そのシリウスの様子を冷ややかに眺めながら、スネイプは続けた。最近まで死喰い人であった彼だからこそ言える視点での言葉を。
「リーマス・ルーピンは今もダンブルドアに忠実な騎士団の一人であり、闇の帝王の敵だ。グレイバックがあれだけ暴れ、ただでさえ風当たりの強い狼男の風評が最低になっているこの時でさえ、辛苦に耐え死喰い人と敵対している。我輩ですら『敵ながら見事』という思いを抱いていた男だというのに、その男を貴様が裏切り者と疑っていたとはな」
「………」
もはやシリウスには、長年の敵であったスネイプの言葉に反論する気力は残されていないようだった。黙り込んだまま片手で顔を覆い、小さく痙攣するように揺れている。
(俺は、簡単に友を疑うような男だったのか? やはり所詮はブラックの男だったということか? 狼人間を心の内では見下していたのか?)
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