第五話 死が降りてくる
「幽々子さん、今日はどうでした?」
「とても楽しめたわ。京都市、凄く良い所ね」
「あそこにはまだ行っていない場所が沢山あります! 予定が合えば私と一緒に行きましょう!」
「そうね、また一緒に行きましょう」
空が茜色に染まる頃。京都の観光を一通り終え、それぞれの家に戻る準備をしていた。
取り合えず今日の観光は一応成功したようである。しかし、本命である冥界や幻想郷に繋がる場所を見つけることはできなかった。やはり、たった一日で見つかる程簡単なことではないようだ。とは言え、まだ始まったばかりだ。万策尽きた訳ではない。諦めるのは早計だ。後で他の方法を考え直そう。
と、ここで唸り声のような音が辺りに響いた。少しして、それが腹の音だと気づいた。
「義徳、お腹が空いたなら夕食よ!」
「決断が早すぎる……でも、賛成です」
「折角京都に来たんだから外食がいいわ!」
「若葉の言う通りだな、ここは……」
スマートフォンをポケットから取り出し、地図アプリを開く。現在地の近くある最適な飲食店を探す。
三人が向かったのは焼肉屋。勿論食べ放題に対応している店である。これなら自らの財布に負担を掛けることもなく、幽々子の腹を最大限満たすことができる。幽々子の食欲に店の食材の供給が追い付くかどうかという懸念はあるが、ここは食べ放題というシステムに心から感謝して店内に入る。
「三名様でよろしいですね? それではこちらの席へご案内致します」
店員の丁寧な対応に従い、指定された席に座る。一連の行動を確認した店員は去っていった。
「あ、俺はトイレに。メニューは二人で……」
そう言って、義徳はやや急ぎ気味にトイレ部屋の方へ向かっていった。これで、若葉と幽々子が対面して座る形となった。
「……あの、幽々子さん」
「ん? どうしたの若葉ちゃん」
もじもじとする若葉。幽々子には彼女が何かを躊躇っているように見えた。そうするようなことは特に無い筈だが。
「……義徳のこと、どう思います?」
「どうって?」
それは義徳についてだった。
「幽々子さんにとってあいつはどういう人間なのか知りたくって」
「そうねぇ……」
若葉が見た義徳の幽々子への対応は、今までの彼のそれとは異なる。普段は冷静で落ち着いている義徳があそこまで困惑を露呈することは珍しい。やはり、無意識ながらに恋情を抱いていると考えるのが筋だろう。
「私は、義徳はとても良い人間だと思うわ。見ず知らずの人だって関係無く助けられる優しさがある。あと、揶揄うと面白い反応をしてくれるし」
ここまでは予想通りの感想だ。それに続く言葉は────。
「ただ、どこか壁を感じるのよね。人当たりは良いけど、上手い具合に他人行儀というか……義徳自身は隠してるつもりなんでしょうけど。何かそうする理由でもあるのかしらね?」
これも義徳と親しい者ならば誰しもが抱く感想である。一見親しく接しているように見えて、頑なに距離を縮めようとしない。義徳と接する人間はそこにもどかしさを感じる。
「小さい頃は普通に人と接していて友達も多かったんです。ただ……父親と姉を亡くした時から、今みたいに人と積極的に関わるのを控えてて」
「義徳にそんなことが……」
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