ハーメルン
お姉ちゃんは何でもできる【完結】

 参京区教育学園。夕暮れに照らされる無人の校庭を抜けた先、地下水路に通じるマンホールの周囲に複数の少女たちが集まっていた。

「フェリシアちゃん、ここがあの人たちの拠点なの?」
「そーだぞ。なんか同じ服着たやつがたくさんいた」
「ウワサの魔力も感じるし、間違いないわね」
「なら急ごう! もう時間がないよ!」

 おなじみのいろは、やちよ、鶴乃の三人から成る神浜ウワサ調査チームに、傭兵魔法少女の深月フェリシアを加えた四人組だ。いろはと同じくウワサに巻き込まれたフェリシアは、ウワサを守る怪しげな集団に寝返るなどしたものの、結局はいろはの説得を聞き入れ共に行動している。

 寝返った経緯もあってフェリシアが先導し、地下水路へ入っていく。

 二房の長い金髪を揺らしながら、フェリシアは口を開いた。

「なあお前さ」
「……えっ、私?」

 お前呼ばわりされたのは、すぐ後ろを歩いていた鶴乃だ。遅れて素っ頓狂な声が出たのに構わず、フェリシアは続ける。

「あの黒ローブの連中と前になんかあったのか? あいつら『由比鶴乃か、まじか……』っつって、泣きそうな顔してたぞ」
「そういえばさっきの小競り合いでも、鶴乃だけ狙われてなかったわね」
「鶴乃ちゃん、どう?」
「うええ? なんにもないよう。さっき会ったのが初めてなんだよ?」

 鶴乃は現在追跡中の黒ローブの少女たちに、はれものに触るような扱いを受けていた。諍いになれば露骨に攻撃を避け、鶴乃が前に出てくるとそれだけでタジタジになる。鶴乃自身も不思議で仕方なかったが、心当たりもまたなかった。

「わっ、コウモリ! 顔にあたった、ばっちい!」
「落ち着きなさい」
「ひゃー!」

 フェリシアがさらに追及しかけたそのとき、水路に棲むコウモリが鶴乃の顔面でダイブ。いろはもつられて悲鳴をあげたことで、疑惑はうやむやになった。

 冷静なフェリシア、やちよに続き涙目の鶴乃、いろはが進んでいくと、物陰から例の黒ローブが姿を現す。

「ここで何を……げっ。由比鶴乃」
「こいつ今げって言ったぞ!」
「なんで!? 私何もしてないよ、ねえやちよししょー!」
「聞いてみればいいのよ。そうやって出てきたからには、少しは話す気があるんでしょう?」

 話し合いに慣れたやちよが前に出て、対話を呼びかける。すると黒ローブの少女は期待通り、自身の所属や目的を語りだした。

 魔法少女の解放を目的とした三人のマギウスがいること。その三人の手足となって動くのがマギウスの翼であり、黒ローブは黒羽根と呼ばれる構成員であること。ウワサを街にバラまいて被害を出すのは解放のために必要なことであることなど。

「七海やちよ。あなたほどの魔法少女なら分かるでしょう。解放の意味、それに縋る気持ちも……」
「ええ。でもね、他人を犠牲にしてまで救われようなんて思ってはいないわ」
「そうだよ! 人の不幸の上に成り立つ解放なんていらない!」
「解放がなんなのかは分からないけど、誰かを犠牲にするのは違うと思う……」

 やちよ、鶴乃、いろはがそれぞれ反論する。フェリシアはよく分からなかったので、頭の後ろで手を組んで突っ立っていた。

 黒羽根の少女は悔しげに唇をかみ、いまいましげに吐き捨てた。

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