瑞乃の経験は神浜史上でも類を見ないレベルで長い。魔力を節約して最小の労力で魔女を倒す技術から、日々の生活で溜まる穢れを抑えるメンタルコントロールも習得しているため、毎日魔女退治に出かける必要はない。せいぜい週に一度あるかないかの頻度で深夜に家を抜け出している。さらに鶴乃がお年頃に突入して姉を抱きまくらにすることがなくなったので、深夜徘徊が鶴乃に感づかれることはなかった。
今夜も8日ぶりの魔女退治を終え、帰路についた。早めに決着が付いたから長く寝られるはずだったが、
「黙ってちゃ分からんぜ、嬢ちゃん」
「ひええ……」
瑞乃は顔も名前も知らない魔法少女を尋問していた。
照明を落とした暗い万々歳。ご丁寧に二階から持ってきた電気スタンドとカツ丼代わりの中華丼(日本発祥)で取り調べっぽい雰囲気が漂う。容疑者の少女は頭にたんこぶをこさえ、涙目ですっかり萎縮している。
ほかほか中華のいい匂いが漂う中、瑞乃が迫る。
「ここ新西では、魔法少女同士のケンカはご法度。ましてや魔女を倒した直後の同業を不意打ちで襲うなんて……エンコの覚悟はできとるんか?」
「ごめんなさいごめんなさいもう二度としません!」
「うん、いいよ」
少女は戦いを終えた直後の瑞乃を襲った。
当然のように中華鍋で防いだ瑞乃はひとまずみねうちで少女を気絶させ、万々歳へ運んだ。少女のソウルジェムは没収──するのはかわいそうなので、テーブルの上に置かれている。
ごめん一つで許された少女は何を言われたかわからないように目を瞬かせ、
「いいん、ですか?」
「これでも結構魔法少女長くやっててね。グリーフシード強盗も初めてじゃないんだ」
「はあ……」
「で、提案なんだけど。強盗するガッツを別のことに活かしてみない?」
魔法少女同士が争う原因はたいていグリーフシードの不足だ。魔法少女の生命線であるグリーフシード、その元である魔女が不足すると、少女のような強盗も出てくる。
「別のことって?」
「私といっしょに魔女退治しようぜ!」
「嫌です!」
「即答!?」
少女は頭をかかえ、耳をふさいでうずくまった。
「だって私、魔女があんなに怖いなんて知らなかったんです……キュゥべえは素質があるって言ってたのに、魔法の力もクソザコだし……あんな怪物と戦ったら、絶対死んじゃいますよ……」
「な、仲間といっしょなら……」
「仲間? 万年ぼっちの私にケンカ売ってるんですか? 余計萎縮して動けませんよっ!」
「え、ええ〜……」
少女は典型的な被害者系魔法少女だった。キュゥべえに魔法少女のきらきらした部分だけを売り込まれ、軽い気持ちで承諾したはいいものの実際に戦う力も度胸もないタイプだ。神浜市にはこうした力のない魔法少女が無数に存在していた。この手の魔法少女は強くなる努力も立ち向かう勇気もなく、ただ魔女になるのを待つしかない。
「どうせ私なんて何やってもダメなんです……やることなすこと空回り、努力は全部無駄になって、良かれと思ってやることが悪い結果を呼び寄せる……魔法を使えるようになっても、どうせ……」
ただ、瑞乃はけっしてそれをよしとしない。
自己嫌悪と共にみるみる濁っていく少女のソウルジェムに、グリーフシードを突きつける。穢れはグリーフシードに吸収され、本来の輝きを取り戻した。
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