suspicaz 怪しい#3
「おかえり、しっかりリフレッシュしたみたい」
「ええ、外の空気を吸ってニコチンを摂取したので」
ギルと代わりまたフィルギアとの接客が始まる。ギルもフィルギアの胡散臭さに調子を崩されたようで深いため息をついていた。でも私に言わせれば二人は似た者同士だ。胡散臭さはフィルギアが上だが何かを隠しているというのは同じだ。これは同族嫌悪かもしれない。
「タバコ吸うの?オレも一緒に行けばよかった。こっちのタバコ吸いたかったし」
「タバコならコンビニでも売っていますので、自分で買ってください」
「イヒヒヒ、それもそうだ」
フィルギアは歯を見せながら笑う。相変わらず胡散臭いがタバコを吸ったせいか、心が乱されない。それに慣れもあるだろう。
「このジュークボックスの曲は誰が選んだ?」
「私です。何か気に入らないところが?」
「いや、テキトウに選んでいるようで一貫性が有る感じ、拘りはある?」
「無いです。自分の好きな曲を入れているだけです。構成や曲の流れなんて全く。働くようになった当初は今日は雨だからしっとりした曲とかという具合に変えていましたが、今はこれで固定です」
「ワカル。客に合わせてもダメ。結局は好きなものを相手にぶつけるのが一番」
「音楽が好きなんですか?」
質問を投げかける。音楽について話す姿は今までのように煙まいた感じではなく、素の感情が見えたような気がした。
「そんな嬉しそうに話してた?」
「ええ、好きなジャンルについて語る人のようでした。好きなんだなというのは伝わります」
「イヒヒヒ、恥ずかしい」
「別に恥ずかしい事ではないかと、私も好きなジャンルについて話す時はテンションが上がってしまいます」
フィルギアは手で顔を覆い、首を振りながら指の間から私を見る。照れ隠しをアピールしているのだろうか?アピールをやめるとピアノマンの残りを飲み干し質問してくる。
「ジル=サンは何か好きなものある?」
「昔は有りましたが、今はそこまで熱意を持ってやっているものはないです。強いて言うなら、酒を飲むことと集めることですかね」
「酒が好きだからバーテンダーをしている。好きな事をビズにする。それが一番の幸せ」
「別に酒が好きだからバーテンダーやっているわけではないです。色々有って今の仕事をしています」
「その色々を聞いていい?」
「ご想像にお任せします」
バーテンダーになるまでに色々有って傷ついて相手を傷つけて、バーテンダーになってからも傷ついて落ち込んで、そして何とか向き合えるようになった。
身の上話を聞き時には話すのはバーテンダーの仕事かもしれないが、この件については今日初めて来た客に話すつもりはない。フィルギアが全てを隠さず話そうとするならほんの僅かに可能性は出てくるが、今の態度ではゼロパーセントだ。
「フィルギアは音楽の仕事に関わっていた?」
「何でそう思う?」
「何となく」
本当に何となくそう思った。強いて言うなら音楽に対する明確な主義主張が有るような気がして、そういう人は音楽に関わっているのかなという漠然とした理由だ。
「まあ、一時期やってた。良いバンド見つけたら知り合いのレコード会社に紹介したり」
「プロデューサーですね」
「そんな大層なもんじゃない。でも気に入ったバンドとつるんでいるのはそれなりに楽しかった。ジル=サン、スープレックス」
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