ハーメルン
仮面ライダーアズール スピンオフ・アプリ
EP.??[1971年の怪]

 時は1971年4月。
 その男は、久峰という一族の長であり、政治家だった。
 日本に住む人々を思って、国をより良くしたいと願って日夜活動を続ける、清い心の持ち主だった。
 ある時、男は都会から離れた島の別荘にて休暇を過ごしていた。
 久々の休みで妻や子と共に大いに羽を伸ばし、笑い合っていたのだ。
 ――その休日の夜に、男にとっての転機が訪れた。

「うん……?」

 男は地下のワインセラーにて、年代物の酒を取り出そうしていた。
 妻と共に飲み明かそうと思っていたのだ。
 だが、そのワインセラーの中で、滴るような水音が微かに聞こえるのを感じ取ったのである。

「ネズミか……?」

 別荘の管理を任せている者にはネズミや害虫などの駆除も命じてあるし、不審人物が侵入する事もまずないはず。セキュリティは万全だ。
 では、この音の正体は何か? ワインボトルが割れて中身が漏れてしまったのだろうか?
 いずれにしろ男はその場所を確認しなければならなかった。幸い、音がどこから聞こえて来るのかはすぐに把握できた。

「ここか」

 そこは、キッチンにもあるような床の収納スペースだ。取っ手を引っ張って戸を開く事ができる。
 ワインセラーにも備わっており、そこにもいくらか酒を貯蔵してあったのだ。
 では、やはり地震か何かの拍子でボトルが割れてしまったのだろう。
 そう考え、男はすぐに戸を開いた。
 すると――。

「うわっ!?」

 床の収納からなんとも言えない腐臭が漂い、さらにそこが真っ黒な泥水で満たされているのが視界に飛び込んだ。
 男は堪らず飛び退き、手に持っていたボトルを取り落してしまう。

「な、なんだ!? 今のは……!?」

 恐怖に呼吸を荒げつつ、這うようにして男は再び戸の中を見やった。
 それと同時に、落としたボトルが転がって収納へと滑り落ち、べちゃりと泥に沈んだ。
 否。一瞬の内に、消滅してしまった。

「え――」

 何が起きたのか分からずに男が声を発しようとした、その時。
 泥の中から、無数の触手が伸び出して男の口から喉の奥深くに侵入した。

「オガッ!?」

 触手はさらに耳や眼窩すらも侵し、男の顔の穴という穴を埋めていく。
 その度に、男は直接脳内を突き刺されたような、不愉快な刺激を感じていた。

「ん、ブッ……ウガ、く!?」

 底の見えない奈落のような、真っ黒な涙を流しながら、男は必死にもがき続ける。
 直後、泥水から横に割れた瞳孔を持つ眼球が浮かび上がり、触手を伝って男の目を凝視した。

『ほう、なるほどなるほど』
「あ、バッ……グハ、ァ」

 しばらくの後、触手は男を解放する。
 脳を何度も何度も弄くられたショックからか、男は失禁して汗や涙を垂れ流し、息を切らして放心状態になっていた。

『この宇宙の文明レベルは芳醇に育っているようだ。まだ収穫期ではないが』
「……あ……う……?」
『もう少し調整が必要か』

 ずる、と再び触手が蠢き、今度は男の全身を飲み込む。

『君と君の一族にはしばらく、私の眷属となって貰うよ。なぁに心配する事はない、ほんの50年ほどの辛抱さ』

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