EP.03[アノマリー2020]
「鷹弘たちは無事だろうか……」
電特課のオフィスにて。
椅子に腰掛けて指を組み、大きく溜め息を吐く鷲我の姿がそこにあった。
その様子を見て、翠月は鋼作や陽子たちと顔を見合わせて苦笑いする。彼がこうして溜め息を吐くのは、何度目だろうと。
「会長。心配するのは分かるが、彼も翔くんも戦う力がある。今は吉報を待とう」
「それはそうだが……あいつが持っているのはプロトアプリドライバーだからな。デュエル・フロンティアを使えるように調整したとは言え、かなり突貫工事だったし……」
そうしてまた、鷲我は頭を抱える。
浅黄はそんな彼を見てくすくすと笑いつつ「そーいえば」と声を上げる。
「ウォズさんどしたの? いつの間にかいないけど?」
質問には、翠月が答える。
「ずっとここにいても仕方ないから、ライドウォッチ捜索の手伝いがてら異世界観光でもすると言って出ていったぞ」
「……それ大丈夫かなー、デジブレインに襲われたりしない?」
「まぁ彼は不思議な力を持っているようだし、いざ見つかっても自力で逃げられるだろう」
それを聞くと浅黄も「そっかー」と、追求せずに納得してしまう。全員、ウォズに関してはさして心配していないようだった。
二人の問答の間も、鷲我はずっと鷹弘や翔の事を心配している。
その時だった。
「情けないな。父親、ましてや大企業の会長ならもっとふんぞり返って胸を張ったらどうだ」
オフィスの壁に背を預けている茶髪の青年が、そんな事を口走った。
胸にバーコードの柄が入ったマゼンタカラーのシャツの上に、黒いパーカーを着て、グレーとマゼンタのデジタル迷彩柄のズボンを穿いている。
どことなくプログラマー風の出で立ちだが、首からはマゼンタのトイカメラをぶら下げている。
『……』
自然にこの場に溶け込んでいる彼の姿を見て、翠月も浅黄も鋼作も陽子も、皆が思った。
この男は誰だろう、と。
しかし、誰もその事を口にしない。深刻そうな面持ちの鷲我も、彼の話に黙って耳を傾けている。
「しかし、息子が死ぬかも知れないというのに……」
「あいつはそんなに心配しなきゃいけない程、ヤワな男なのか?」
「それは……違う。鷹弘ならやってくれると信じているが、プロトアプリドライバーの不安定な出力が原因で敗北に繋がりかねない」
トイカメラを手でいじりながら、青年は鷲我と話を続ける。
その姿があまりにも自然だったので、風貌も相まって、翠月たちは彼を『きっとZ.E.U.Sの社員だろう』と勝手に思い込む。
青年は話し終えた後、壁から背を離して、出口に向かって歩き始めた。
「どこへ行くのかね?」
「散歩だ。適当にブラブラする」
それだけ言うと、返事も聞かずに青年は歩いてその場を去った。
鷲我は感謝の言葉を送ると共に彼の背中を見送りつつ、ポツリと呟く。
「……ところで、彼は誰だ?」
『え?』
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