ゴンドワ封鎖領域 Ⅵ
「……本当に、到着してしまったんですね」
配信の準備を始めようとしたところで、聞き覚えのある声がした。その声に背後に振り返れば、この黒い太陽が照らす闇の明るさの中に正しい光が差し込んだ。闇を割る様に光が差し込んだところに出現するのは、ドレスを纏った翼の姿―――見覚えのある声と姿は、チュートリアルを担当したフィエルのものだった。両手を祈るポーズに、神聖さを演出するような登場だがその表情はどことなく呆れているとも思えた。
「フィエルちゃんちーっす!」
「えぇ、まさかこうなるとは思いませんでしたとも。本当なら後1日か2日はかかるという予想だったんですが……いえ、別に私はこれで良いのですが。えぇ、私は」
「それはつまり納得してない人たちがいるという事ね」
「開発かな?」
「GMかもしれないわね」
「現場スタッフ爆笑してそう」
「楽しくなっているのなら素敵な事ね」
「何も、素敵じゃないんですが」
フィエルのちょっとだけ力の籠った声に、笑い声を返し、フィエルがはぁ、とため息を吐いて手を下ろした。
「いえ、本当に。ここって推奨レベルは10なんですよ? ここにたどり着くまでは11から12を想定して。でもアインさん、未だに8レベルじゃないですか。本当によく戦闘を安定させられますね……」
その言葉にニーズヘッグと共に腕を組んで胸を張る。
「まぁ、最強の火力Wizだからね?」
「私は無敵最強のニーズヘッグ様よ。がおー」
「まるで悪びれないですね……、おかげでアインさんの担当に回されましたよ。私」
「ご愁傷様」
「ボスの周りはいつも賑やかで楽しいわよ」
そういう事じゃないと思うんだけどなー。まぁ、AIが順調にストレスを増やしているようで何より。このままバグったらおもしろくならないか? いや、その賠償で一生分のお金が吹っ飛びそうなのでやっぱり止めて貰おう。直ぐに思考が脇に逸れてしまうのが自分の悪い癖だなぁ、と軽く呟きながらで、と声を零す。
「フィエルちゃんも遊びに来たって訳じゃないよね。いや、そもそもフィエルちゃんって遊びに出られるの?」
「え、私ですか?」
フィエルが軽く驚いたような表情で答えた。
「私は時折街に出て遊んでますよ、休み時間はAIであろうとも与えられてますから。その時は気づかれないように軽く姿を変えてますけど」
「ほえー」
AIも割と人権が認められてるんだなぁ、と思うと面白い話だ。疲れも知らない存在の筈なのに、パラメーターから排除すればすぐに働かせそうなものだがそうじゃないのだろうか?
と、そこでぱぱっとフィエルが手を叩いた。
「はい、では説明をさせていただきます」
「ロールプレイ風にすると?」
「稀人様、よくぞここまで辿り着かれました。貴方様が成すべき事の一助となるべく参りました」
「やればできるじゃん!」
「やらせない、させないの違いでしょうに! ……と、とりあえずこの封鎖領域に関する説明に入りました。この封鎖状態でやってこないと意味のない事ですからね!」
少しだけキレ気味にフィエルが言葉を叩きつけて、強引に話を持って行く。その間に配信の準備を進めて行く。まずは連携から外部のサイトにアクセスして、ツブヤイッターでこれからシャレムの配信をするよー、と告知しておく。とりあえず枠を取って、カメラを出現させる。お、半透明の配信用カメラが出現した。これで映像が撮られるらしい。あ、設定で視点設定も出来るのか。画面分割……するよりはこのカメラに自由移動させていた方が良い絵が撮れそうだ。カメラアングルはこのお勧めになっているAI設定でいこう。
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