第16話 シア、一世一代の勝負
【Side 優花】
シアが戦闘訓練を始めて、今日が最終日の10日目。
「でぇやぁああ!!」
教官役のユエに向かってシアが圧し折った大木を投げつける。
それを見て私は、なんとまあパワフルになったものだと驚嘆する。
訓練を始める前のシアは間違いなく非力で、大木どころか枝を振り回すのも一苦労だった筈。
それがたった10日間でここまでの怪力を引き出せるようになったのは、偏にユエの指導の賜物だろう。
感覚で魔力を使ってる私達じゃ、シアをここまで強くすることは出来なかったと思う。
「……〝緋槍〟」
投げつけられた大木に対して、ユエは炎の槍を生み出してそれを放つ。
大木は一瞬にして燃え尽き、灰となって宙を舞う。
「まだです!」
直後に真上から丸太が投げつけられ、ユエはバックステップでそれを躱す。
でも、その瞬間にその丸太に蹴りが叩き込まれて砕け散り、無数の破片の散弾となってユエに襲い掛かった。
「ッ! 〝城炎〟」
ユエは炎の壁を発生させてそれを防ぎ、
「もらいましたぁ!」
「ッ!」
更に後ろに回り込んでいたシアが大槌を振りかぶっていて、直後に衝撃波を伴って振り下ろされた。
その瞬間、
「〝風壁〟」
ユエは風の壁を発生させると同時に飛び退いて大槌の直撃を躱し、更に風の壁で余波を防ぎつつその風に乗ってシアから距離を取る。
そしてそのまま、
「〝凍柩〟」
「ふぇ! ちょっ、まっ!」
大槌を振り下ろした状態で隙だらけとなっていたシアに氷系魔法を放ち、頭を除いて一瞬で氷漬けにした。
ユエとシアは勝負をしていた。
それは、訓練が終わる今日までにシアがユエに傷一つでも付けられたらシアの勝ちという勝負。
その結果は、
「づ、づめたいぃ~、早く解いてくださいよぉ~、ユエさ~ん」
「……私の勝ち」
氷漬けのシアにユエが勝ち誇った笑みを向ける。
だから私は、
「そこまで!」
試合終了の合図を出す。
私はこの試合の審判役だ。
だから試合結果には公平な判断を下す。
「この勝負……………シアの勝ちよ!」
「えっ!?」
「…………何故?」
私の言葉にシアは驚いた表情で顔を上げ、ユエは納得いかないという表情で私を見た。
「ユエ、頬っぺ」
私は自分の左頬を指差しながらそう言う。
ユエがつられる様に左頬をなぞると、そこには一筋の傷。
おそらく先程の大槌の一撃で飛び散った小石の一つがユエの風壁を突破したんだと思う。
小さな傷でも、傷には違いない。
すると、
「それ! ユエさんの頬っぺ! キズです! キズ! 私の攻撃当たってますよ! あはは~、やりましたぁ! 私の勝ちですぅ!」
シアが満面の笑みで喜び、勝ちを宣言する。
「……………傷なんて無い」
なぞった傍から再生能力で傷を消し、とぼけるユエ。
「んなっ!? 卑怯ですよ! 確かに傷が……いや、今はないですけどぉ! 確かにあったでしょう! 誤魔化すなんて酷いですよぉ! ていうか、いい加減魔法解いて下さいよぉ~。さっきから寒くて寒くて……あれっ、何か眠くなってきたような……」
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