2063年2月1日 15:25 UMP40
「あたいはあの事件の断片にいた。紛れもなく当事者の端っこにいたし、あの場所で人知れず消えるはずだった」
あたいの声は今までにないほど情けないほど震えてる。どさくさで自己紹介はざっくりすませたけど、ひとりぼっちでつらい。それでも、前に進むために少しずつ話していく。小屋の中をひっくり返すように探したら、みつけたスケッチブックと鉛筆で絵や文章を書いて過去を整頓しながらね。
「あたいは、ずーっと前に鉄血製のスパイ人形としてグリフィンに納品されたんだ。電子戦モジュールだけ詰め込まれて一人でスパイをやれって命令を刻まれてさ。孤独で、不安で鬱病みたいな状態になりそうなのを必死で押し隠していると何も知らない、似たような人形がやってきたんだ。それが妹分で親友のUMP45っての」
ざっくりとスケッチした45の横顔を見せる。あたいがいつもみていた、愛おしい泣き虫な横顔を。そしたらすみれが反応してくれた。
「少し似ていますね」
「やっぱり似てるよね。ふふん。かわいいんだ」
さらにスケッチしながら、過去をまとめていく。
「一人で産業スパイやれって言われてもさ。何もできないしら妹分はあたいよりも電子戦モジュールで容量カツカツで見ていて不安になるし。そんな中、電子戦部隊として出向しろって言われて放り込まれたのがグリフィンの人間が言う蝶事件」
本当にざっくりとだけど、どこからどうあの建物に侵入していったのかを描いていく。考え込んでいたM16ってやつが質問してきた。
「あの事件、どう動いてた?」
「うん。あの時は、グリフィン側から見れば裏切りって形になるのかな?あたいは情報しってて、45は知らないまま、ここをこう走り回ってた」
ザクザクと乱暴にどう走ったのかを描いていく。そしたら、またM16が質問してきた。
「あの時、あんたら二人に何があった?」
「エリザ?ってすごいやつが鉄血で上位の権限もってて、そいつが鉄血製の人形を動かしやすくするためにメンタルを初期化のコマンドを実行。で、あたいと45もそうなるはずだった」
「あの時にそんなことが。ああ、続けてほしい」
M16促されてまた話を続ける。あの日のことを思い出して手が震えて仕方ない。本当に、45に対する酷い裏切りの日だ。
「あたいは気づいたんだ。データ上だと45はあたいの子機扱いされてるみたいだって。あたいがちょっと工夫してからあたいが消滅すれば、45だけは生き残れるって」
スケッチブックに文章をまとめていく。親機の消滅で、共倒れを防ぐとか、何を45に残したかとか、その際の手順なんかも。
「共倒れするより、全てを託した方が良いからってことか」
「そうだよ。45にあたいが持ってる知識や技術、遺言を転送して。それで人間で言う自殺はできないから、45に頭を撃ってと頼んだ」
スケッチブックに「これであたいは終わりのはずだった」と書き殴る。鉛筆でコンコンとスケッチブックをたたいてから、強がるために笑って見せる。
「45って、ずっと射撃が下手でさ。だからあたいは一回死んで、なんでかまた生き返ったわけだけど」
片手で髪の毛をよせて額をみせる。横にそれたから浅くすんだ弾痕。それにみんなが驚く。
「運が良いのね」
AR-15だっけ?ピンクの人形がすっごく驚いてた。無理もないよ。
「あたいは悪運だけは強いんだ。そんで、それからなんだけどね。なんかよくわかんないけど、生き返ったあたいは戦場とその付近をウロウロしてここまで来た。そこで出会ったのがすみれ。熱でぶっ倒れてるとこを見つけて看病した。すみれったら、とんでもないことを言うんだよ?自分はもうこの熱で助からないから、放っておいてくれ。死んだら、そこの庭にぬいぐるみと一緒に埋めろって」
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