ハーメルン
ゴーストフロントライン
2063年 1月29日 19:39 UMP40

熱でぐったりしている子供を抱き抱えて、慎重に食べさせる。これがあたいの重要任務。今まであたいは何かを壊したことはあっても、誰かを生かしたことはない。手が震えてしょうがなかった。
「何はともあれ、気合だー」
その裏であたいが食べるためにレーションを温める。ペンライトをサイドチェストの上に置いて、気合を入れる。人間、食べないと生きていけないし。ついでに、あたいも食べる。うん、なんて合理的なんだろう!震える手を握って、みつめる。
「生きなきゃ、ね」
よし、震えは消えた。それだけわかれは十分だと、目の前の儚くなりそうな命の灯火をすくい上げるために手を伸ばした。
「よしよし、いい子だ。もっと食べなさい」
意識が定かでない子供に解熱剤とレーションと水を無理矢理とらせる。この難易度を舐めていた。誤嚥しないように、少しずつ食べさせて見守ることがもどかしくて、不安で仕方ない。一番腹が立つのは、本人には生きる気力が無さそうだってこと。それに関して、あたいは怒っていいんだ。うん。こんな幼い子が生を手放したがるのが許せない。
「あんたは生きろ。あたいも生きるから」
無事に解熱剤を飲ませて、ほっとした。横向きに寝かせてから、部屋のストーブに火をつけた。
部屋の隅にあった薪ストーブは古いけど、まだ使える。先に小屋の裏手から薪をとってきて良かった。これであたいも幸せぬくぬく。これで、落ち着いて物事を考えられる。そういえば、裏手に物置小屋があってそこから色々拝借してきたな。
「寒いし使い古しの毛布、持ってきて良かった。寝袋もあるし、念のためにちょっとだけ換気のために窓開けて。うん。これでいいよね」
その中でも、物色した時に見つけたボロ布を床に敷いて、そーっと座りながら考える。
「何しよっかな。この子助けて、話聞いてみたい。それから、身の振り方を考えよ」
きっと、互いに捨てられたんだろうな。捨てるやつがいたら、拾うやつがいてもいい。退屈はしないはず。あたいはどこまでも身勝手で、わがままだ。45のために自分の身を差し出して、消えたてもりだったのに生きたくて逃げてる。
「今のところ、この子に異常も周囲に異変もなし。このまま、朝までに持ち直してくれたら移動できる。そしたら」
人混みに紛れるために町に行ける。あたいがここに来る前に立ち寄った町に。
「あそこはまだ治安が良いから、必要な物だけ買ってさ」
コンパクトシティ化のために、行政が放棄した街の跡地に人々や人形達が勝手に移り住んだからできた町。この世界にはそんな場所が星の数ほどある。計画たてたら、なんか乗り切れる気がしてきた。
「いい?足掻くんだよ。あたいも足掻くからさ」
あたいはベッドで眠る子に祈る。この子は水分と栄養をとったから、落ち着いてきた。その穏やかな呼吸希望を託した。

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