2063年 2月1日 06:12 UMP40
「あー、結局ねられなかった。この子の熱は下がって、呼吸も安定してるけど」
この子の容態が急変することを恐れて、眠れなかったけどさ。やっと朝が来た。太陽はまだ登らないけど、朝だ。良かった。背伸びして、窓の外を覗く。誰も、何の気配もないことに安心した。
「生きてる。あたいも、この子も」
明けない夜がこの子を拐いに来たけど、守れた。
「良かった。本当に」
なんだあたいでも、まともな方法で誰かを守れるんだ。これで自信がついた。あとは45に謝るための自信と言葉をみつけるだけ。
「あの時、45を壊したようなもんだった。今は違う。誰かを生かした。45にまた会えたら、謝らないとな」
あたいの代わりに45を残すって決めたあの瞬間に、あたいは気弱な45を壊した。生かしたつもりで、45の「心」に消えない傷をつけた。
「熱もない。うん。良かった」
痩せた頬を指で撫でる。とってもガサガサであたいに「心」があったら、痛くなってる。何をすれば、か弱い子供一人にこんな逃避行をさせることになるのか。
「きっと、あたいもこの子も誰にも必要とされてない。これはあたいの感傷でしかない」
ついつい小さな顔を覗き込む。ダークブラウンのまんまるの瞳にくたびれたあたいが映った。額の傷痕は見えてないといいな。ぼろぼろの包帯で巻いただけで、修理屋にも行ってないし。
「あ、おはよう。あたいはお化けだよ」
第一印象を良くしたくて、優しく笑いかけた。
「おはようございます。お化けですか?」
子供からは無理に作ったような低い声がした。不安と警戒、子供らしさを捨ててまで生き延びる覚悟をした声色。この子の不安があたいにもうつる。瞳にうつるあたいの顔も悲しみの色がのった。
「そうだよ。あたいは、誰かを救うために犠牲になったつもりのおばけだ」
子供らしさを捨てた子に勝手に悲しさを感じて、あたいは勝手に優しくする。
「おばけ」
子供のぼんやりしたまま繰り返す言葉に頷く。のみこめてないな、この状態だと。
「そうだよ。わがままで君を助けたおばけだ」
「私を拐いにきたんですか?」
絵本の中のおばけって、だいたい人を拐うもんね。そう思うだろう。あたいはおばけみたいなもんだ、やってやろうじゃん。あたいは無理に笑って、つやをなくした黒髪の頭をそっと撫でた。どこもぼろぼろじゃん。守らないとって気持ちになってくるよ。
「うん。拐って、世界を教えてあげる」
「世界、ですか?」
子供はきょとんと首を傾げた。やっと子供らしい表情にほっとした。あたいは思いっきり笑って、さらに頭を撫でた。
「広い世界、その先を掴みに行こう」
そのために、まずは残った食糧でも食べようか。
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