ハーメルン
ゴーストフロントライン
2063年 2月1日 07:46 UMP40

「このクラッカー、水分が奪われるからあたいはそこまで好きになれないや」
粉末スープをお湯でといて、流し込む。人形用のレーションなんて、栄養重視のよくわからない固形物だからいや。闇市を流れに流れた、食事が美味しくない国の人間用レーションもいや。口にしている今回のレーションはまだアタリで良かった。味がまともで、量もあるしさ。
「久しぶりにまともな物を食べました」
すみれをいいくるめて、小さく割ったクラッカーに、残った肉のパテをのせて食べさせる。
「ほら、あーん」
「あっ、はい」
食べさせたら、ハムスターみたいに口をもごもごしてるの。かわいいな。のどをつまらせるといけないから、沸かしたお湯で作った紅茶を用意して待つ。
「ゆっくりでいいんだよ」
コクコクと頷いて、紅茶を飲む姿を見てると本当に小動物みたい。口元をぬらしたハンカチで拭ってあげるとまた笑ってくれた。かわいい。
「それでいいんだよ。ゆっくりお食べ。そしたら、どこに行こうとしていたのか教えてよ」
「私が話せる範囲でなら、お話します」
すみれが行くという地区の基地名や、そこに至るまでの背景なんかを聞き出す。聞いたとたんに嫌な噂が頭を駆け巡る。たしか、そこはグリフィンの秘密の処刑場。入った者はいたが、出た者は誰一人としていない。そもそも、こんな幼い子を危険地帯に一人で放り出すことがおかしい。名目上でも護衛の人形ぐらいつけられてるはずなのに。
「え?今まで一人だったの?」
「はい。一人です。今までも、これからも」
子供がそんなことを言うのか。虚勢を貼ったすみれの疲れたような微笑みが、記憶の中の45と姿がかぶって見えた。45、あたいはそんな表情をさせたかったわけじゃないんだ。ただ、生きていて欲しかった。それだけなのに。違う。この子は45じゃない。
「悲しいよ。そんなの」
「悲しいって何ですか?」
もしかしたら、すみれは感情も知らずに育ったのかもしれない。そんな歪な環境にいることすらわからないこの子を守りたい。
「決めた」
「何を、ですか?」
何も知らせずに動いて、身勝手に今までの45を壊したあたいが思うのもなんだけどさ。とっても勝手なことだよ。たった一人を純粋に守りたいだなんて。
「あたいが仕事よりも楽しいことをしてあげようか」
子供には笑顔と未来が必要だ。それに、あたいには側にいてくれる誰かが必要だ。だから、今度こそ決めた。
「なんですか?」
「家族になろう」
「いいんですか?私はお金も何もないですよ」
今のあたいはもう、道具としての役割は終わったお化けだ。やりたいようにやる。誰かを身勝手に連れ出して生きる。
「あたいたちは今から家族だ!どこへだって行ける。旅をしよう。うーんと南に行って、海を見に行こう」
そうだ。今のあたいはお化けだ。勝手に生きてみよう。

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