ハーメルン
ゴーストフロントライン
2063年 2月1日 08:05 UMP40

そうと決まれば、やれるだけのことをやろう。良いなと思ったらすぐに行動に移せるのはあたいの長所だ。食べたレーションの容器を捨てて、残ったレーションの点検をしながら決めたことをきちんと話した。あたいたちに必要なのは、協議と妥協。とことん言うべきだし、聞くべきだ。
「食べて寝よう。寝て、体力回復してから南に行こう」
あたいの言った事の背景はうまく飲み込めてないけど、移動することだけはわかったみたいですみれは納得してくれた。数分してから、涙を一つこぼしてすみれが口を開く。
「はい。この手を離さないでいてくれるのなら」
とても小さくて切ないお願いを一つ。この手を離さない、たったそれだけ。
「何があっても、離さないからね」
我ながらとても身勝手だ、とは思う。小さくて、あかぎれとしもやけでぼろぼろの手をそっと握る。この手もきちんと手当てしなきゃな。あとで薬箱をまたひっくり返してみよう。ここに来るまでによった田舎町に足を運ぶのもいいな。
「信じてもいいんでしょうか」
すみれの不安で揺れる小さな瞳と声。ふっと記憶の中の45の顔と重なって少し苦しい。言ったからには、貫くよ。守れなかった45の笑顔の代わりに。あたいも生きるからさ。生きていれば、45にだって謝れるし。
「何があっても、守るから」
震える声をどうにか抑えて、宣言する。きちんと言えた。そしたら、すみれがおずおずとあたいの手を握り返してくれた。
「本当に?」
「本当だよ。何があっても、守るから」
勝手な誓いを立てて、勝手に命を背負って笑う。
すみれみたいな身寄りのない子供なんてよくいるよ。けどさ、この年で死を受け入れる表情に腹が立った。足掻け。あたいも足掻くから。
「ベッド、使いますか?私は十分寝ましたし」
「病み上がりは寝てなさい。缶詰、開けちゃったし、食べるんだよ」
その痩せた頬を健康的なプクプクほっぺにしてやる。そんで一緒にさ、幸せになろうよ。
「なんだか、本の中にでてくるお母さんってひとみたい」
まさか、この子は母親と言う言葉の意味と存在すら知らないの?
「えっ?」
ひゅっと息を吸う音が冬の朝に嫌に響く。人形って、排熱のために呼吸は必要だし。でも、これには驚き過ぎた。
「えっとあの」
「え?ああ、うん」
あたいはすみれの背景を想像して驚いて、すみれはあたいの表情に首を傾げる。勉強だけは知ってるまっさらな子に、尽きることのない愛を。あたい自身には強さと明るい未来を。
「どうしましたか?」
「なんでもない。あたい、決めたよ」
決めたことを言うために、大きく息を吸い込んだ。

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