四航戦、出向する!
航空戦艦日向は提督の執務室に呼ばれていた。
「君に頼みたいことがある」提督は答える。
「その言い方は出撃ではないな?・・しかし、私にできることならやろう」
「内容を聞かなくていいのか?」
「まさか『死んでこい』とでも言うのか?」日向は口の端を少し上げながら聞く。どうやら冗談を言っているらしい。
「そんなことあるわけないだろう・・実は、君には憲兵隊に出向してもらいたい」
「憲兵?私、いや、艦娘が?」日向は初めて困惑したような顔になる。
それもそのはず、そもそも海軍自体に憲兵が存在しないため、艦娘の憲兵など聞いたことがなかったからだ。
「これまで艦娘が犯罪を犯すことは幸いなかったが、艦娘に対する犯罪はあった。憲兵隊としても本気で捜査・検挙しているが、海軍、しかも艦娘相手にやりにくいところもあるので、艦娘を憲兵として入れた方がいいということになったんだ」提督は説明する。
「・・それは了解した。しかし、何故私が?」日向は尋ねる。
「こう言っては申し訳ないが、海防艦、駆逐艦、軽巡では荷が重すぎるから、まず外す」
「確かに、彼女らに人間の闇を直視させたくないな」日向も同意する。
「重巡では、対象者が戦艦や空母になったとき、どうしても遠慮が出てしまうから、これも外さざるをえない」
「そうなると戦艦か空母から選ぶことになるが?」
「・・戦艦と空母では戦場の主役を奪う、奪われるという関係になってしまったことから、お互いに心の壁が生まれやすいが・・」
「なるほど、お互いの要素がある航空戦艦なら、その架け橋ができるということか」
日向は納得したような顔をする。
「・・しかし、航空戦艦なら伊勢ばかりでなく、扶桑や山城もいる。私より適任者がいるように思えるが?」
「それは違うな」提督は続ける。
「お前は『瑞雲に多少こだわりが強いが、それ以外は常に冷静で、誰に対しても偉ぶらないから慕われている。また、長門が艦娘代表になる以前は艦娘代表を務めていたから顔も広いし、敬われてもいる』・・と扶桑たちが口をそろえて言っていたぞ」
提督は最後は笑いながら言った。
「まさか、私に押しつけてくるとは・・しかし、私は、戦闘と提督の秘書業務くらいしかやったことがない。捜査などできるだろうか?」
「それについては、憲兵隊から『常識が備わっていれば問題ない』と言われている。君は常識人だと私は思っているが・・」提督は言う。
既に詰んだ状態であることを悟った日向は、「できることならやる」と言ってしまったこともあり、憲兵隊への出向を承諾したのであった。
憲兵隊本部へ出向した日向は、憲兵少尉待遇となった。通常の部隊であれば、士官でも最下級であるが、憲兵の場合だと意味合いが全く異なる。憲兵少尉ならそれこそ大臣クラスであっても、何の問題もなく逮捕、取り調べができる。
つまり、容疑と証拠さえあれば、原隊の提督さえも捜査の対象とできるのだ。
「まったく、私に憲兵を押しつけた奴を職権乱用で捕まえてやるかな」日向は密かに危険なことを考えてみたものの、実現させることはなかった。
それというのも、艦娘が関わる(と言っても被害者であるが)犯罪が結構発生しているからであった。実際の捜査は他の隊員が行うものの、全国各地を飛び回って被害に遭った艦娘からの事情聴取に同席したり、意見を述べたりと結構忙しい思いをしていたからであった。
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