きっとどこかで読んだことがあるようなブラック鎮守府解放記
日度井鎮守府。そこは鎮守府という名の犯罪の巣窟であった。提督による艦娘の虐待に始まり、物資横領、密輸、周辺住民への徴用という名目で行われる恐喝、強盗・・ありとあらゆる犯罪が横行していた。
しかし、遂に、日頃は仲の悪い警察と憲兵にとどまらず、国税、税関・・あらゆる捜査機関が総動員された一斉検挙が行われ、提督以下関係者は一網打尽となった。
日度井鎮守府に残った2人しかいない正規空母のうちの1人である蒼龍は、生きることに疲れていた。確実にドロップしているという赤城すら発見できず、その他の正規空母はついに誕生することはなかった。理由は簡単、前任が正規空母が建造できるだけの資材をケチってその分を横流しし、懐に入れていたからある。
日度井鎮守府にあっても、空母がなければ戦争そのものが成り立たなくなるため、中破以上になれば、入渠だけは許されていた。しかし、その他の艦娘はギリギリまで入渠が許されないか、そのまま撃沈させられていた。そんな状況を見続けていた蒼龍は生きる希望を失っていた。もう1人の正規空母である飛龍の存在だけが、かろうじてこの世に引きとどめていたが、それも限界に近づきつつあった。
そんな中、新たな提督が日度井鎮守府に着任してきた。
人間、特に「提督」の名の付く人間に逆らえない艦娘である蒼龍は、その提督から死を賜ろうと心に決めていた。
「日度井鎮守府の提督を命じられた○○と申します。よろしく」提督は挨拶をしたが、艦娘たちは何の感情も示さない。人間不信となっている艦娘たちは、感情を表すことを極端に恐れているのだ。
そのような中、蒼龍が声を上げる。
「新しい提督?どうせ前任と似たり寄ったりなんじゃない?私は人間は嫌いじゃないけど、提督と名の付く奴は大嫌い。前の奴は何でもカネに結びつけた。ここにいる私たちを見れば分かるとおり、無傷の者の方が少ないし、服装だってボロボロ。一度だってまともな食事にありつけず、いつも空腹に悩まされていた。そんな中、地元の人たちは、私たちの姿を見かねて一度ならず食料を分けてくれた。もちろん、その気持ちの中には自分たちの生業を守りたいという打算が含まれていたかもしれない。それでも、前任のクソ野郎に比べたらはるかに真心がこもっていた。
私は、そんな人たちの生業を守るために命をかけることを誇りにしてきた。どんなに格好よくても死んでしまったらそこで終わり。私一人がどんな屈辱にまみれようとも、生きて、生き残ってこの海に生きる人たちの生業を守るためだけに戦ってきた。
・・でも、もうそれも無理。深海棲艦の航空機はどんどん更新されて、九六式艦戦、九七式艦攻、九九式艦爆ではとても太刀打ちできなくなった。私たちの艦載機は一方的に撃ち落とされて、搭乗員の練度もどんどん下がっていった。これじゃあ、とても勝ち目はない・・
私が深海棲艦に撃沈させられるのも時間の問題。さあ、深海棲艦に突っ込ませる?それとも解体?じゃなくちゃ、どこかに売り飛ばす?」
蒼龍は、確実に死を賜るべく、思いつく限り悪態をつき続けた。もっとも、言った内容にうそはなかったが。
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