ハーメルン
復讐の炎がこの身を焼き尽くす前に
次元航行艦アースラ

 時空管理局には執務官という役職がある。
 事件の捜査権と局員への指揮、指示権。管理世界における管理局法の執行権限──つまり一時的ではあるが現地法よりも管理局法を優先させる権限や、担当案件に関係する管理外世界への介入権など、極めて強力な権限を持つ。
 高い権限にふさわしく、求められる能力も並大抵ではない。多種多様な世界の法知識や文化への知見は前提だが、重視されるのは確実に事件を解決する戦闘能力、もしくは指揮能力だ。
 複数の世界に関わる事件においては、通常の権限に縛られた捜査官だけでは適切な判断を下せないがゆえに生まれた存在。
 それは管理局が築き上げた過去の実績と現在の信用と未来の期待を象徴する、管理局随一の花形部門だ。

 要するに今この場に現れた少年、クロノ・ハラオウンはこの場にいる誰よりも優秀で強い。

 ウィルがクロノに声をかけた時、フェイトは魔法を行使し始めていた。不意をつくつもりだろうが、クロノはウィルの方を向きながらもフェイトへの注意も怠っていなかった。フェイトの動きに呼応するように魔法を紡ぐ。
 そんな二人を見ながらウィルはアルフに告げる。

「管理局が来たから、約束通り休戦はここでおしまい。早くフェイトを連れて去った方が良いよ」
「見逃すつもりかい?」

 すでに戦うつもりだったアルフは、ウィルの態度に拍子抜けする。
 ウィルはハイロゥを起動。同時にバリアジャケットを身に纏いながら、その言葉に苦笑を返す。

「ここで取り押さえようとすると、なのはちゃんが反対して絶対にややこしいことになる。俺にはわかる」
「ああ……うん、そうだろうね」

 意図的に執務官の妨害をしたとなれば、本来なら民間協力者として称賛を受けるべきなのはの立場も一気に反転する。そんな事態は避けなければならない。

「だからジュエルシードだけで我慢しておくよ。もしフェイトの母親のことで気が変わったらいつでも連絡してくれ」
「だからそれは……わかったよ、覚えとく」


 フェイトがクロノへと放った魔力弾はシールドで容易に防がれる。
 しかし魔力弾は牽制にすぎず、真の狙いはその隙にジュエルシードを回収すること。
 クロノはフェイトの一連の動作にまるで動じず、冷静さを保ったままデバイスの先端をフェイトに向ける。

『Stinger ray』

 たった一発の魔力弾が放たれた。誘導性もない直射弾でありながら吸い込まれるようにフェイトの元へと向かい、展開したシールドをこともなげに貫通して直撃。
 スティンガーレイは威力は控えめだが速度と貫通力に優れた魔法だ。クロノのそれはウィルと比べてはるかに強力で、生半なシールドでは止めることすらできない。

 フェイトが体勢を立て直して再度ジュエルシードを目指そうとする頃には、クロノはフェイトを捕縛するための魔法の構築を終えていたのだが、

「ちょっと待って! わたしたち、別に戦おうとしてたわけじゃ……ええと……戦おうとは思ってたんだけど、それは別に本気の勝負ってわけじゃなくて──」

 射線上に身を躍らせたなのはの姿に一瞬の躊躇。

 その間にフェイトがジュエルシードに向かおうとするも、その横をハイロゥによって加速したウィルが駆け抜けて一足先にジュエルシードを確保した。
 彼の移動によって発生した衝撃波が臨海公園の木々の葉を吹き飛ばし、すぐそばを通られたフェイトもその影響を受けて姿勢を崩す。が、それを後から来たアルフが空中で掴んだ。

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