家族二つ
日が沈み、周囲から人気がなくなるのを待ってから、ウィルとなのはは海鳴の臨海公園に転送された。
ユーノはアースラに残り、回復魔法で治療班の手伝いをしている。言葉だけではなく、貢献によってきちんとクロノへの謝意を形にしたいらしい。
なのはと二人で翠屋まで歩く中で、街灯に照らされる海鳴の街へと視線をやる。
ジュエルシードが発生させた大樹のせいで壊れた建築物の修理も着々と進んでいる。ジュエルシードがもたらした変化はこの街で生きる人々の営みに飲まれて、やがては消えてなくなる。
それは良いことだ。ウィルの存在も、ジュエルシードも、もともとこの世界にとっては異物なのだから。
「今までおつかれさま。後始末は大人たちの仕事だから、なのはちゃんは今は体をゆっくりと休めて……」
街の光景に感慨に抱きながら、隣を歩くなのはへと声をかける。
しかしなのはからの反応はなく、横を見ればなのははまったく周囲を見ずにうつむきながら歩いていた。
「なのはちゃん?」
呼びかける声が聞こえていないのか、とぼとぼと歩き続けるなのは。
その進行方向に電柱が直立していたので、ぶつかる直前に後ろからなのはの襟を掴んで彼女の歩みを止める。少し首がしまったせいで、きゅうとかわいらしい声をあげて、なのははようやくウィルの方を向いた。
「フェイトのことなら、気にしない方が良いよ」
「でも……」
ウィルを見上げるなのはの瞳は、今にも泣き出しそうに潤んでいる。
「責任と原因は違うよ。酷な言い方かもしれないけど、フェイトが傷ついたことに対する責任は、要請に従わなかったフェイト自身か、彼女の保護者兼事件の首謀者のプレシアにある。なのはちゃんのやったことは間違っていない」
「でも、私がもっとうまくやっていればフェイトちゃんはあんなに傷つかなくても……。それに、最初から私が戦っていたら武装隊の人たちだって……」
「それは自惚れだよ。武装隊は何年も訓練を続けてきたプロだ。プロの仕事の結果を見て、素人が自分が手伝えば良かったかもなんて、彼らに対して失礼だ。それに話を聞いた限りだと、収束砲撃は威力は大きいけど隙も大きい。きっとその状況でなかったら発動する前に止められていたよ」
「でも、でも、私があとほんの少しでも丁寧に魔法を組んでいたら! フェイトちゃんを止められるような強い魔法を撃とうってことしか考えてなくって! あんなことになるなんて、全然考えてなかった!!」
なのははついに泣きだす。両手を顔に当てて堪えようとしているが、あふれ出る涙は指の間を通り、腕を滴り落ちていく。
ウィルは、なのはが人目を気にせずに泣けるように結界を張った。そして結界の反応を感知したアースラから何かあったのかと連絡が来て怒られた。
近くの植え込みを囲むブロックになのはを座らせ、ポケットのハンカチを渡す。
なのはの悲しみの原因は、魔法の非殺傷についてしっかり教えていなかったウィルにもある。
ミッド式は非殺傷を大きな利点として謳っているが、傷つけずに倒すなど都合の良い幻想だ。
魔法とは不可思議な力によって引き起こす万能の奇跡ではなく、れっきとした技術であり、物理現象だ。この広大な宇宙のどんな場所でも、たとえ世界が異なったとしても、物理法則は変わらない。そして蝶のはばたきが竜巻を引き起こすように森羅万象は密接に関わりを持っている。
[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/8
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク