第四局 九頭竜vs神鍋
俺はあいちゃんを道場に送り届けてから棋士室に向かう。
俺が部屋に入るとそこにいた若手棋士や奨励会員が少しざわつく。基本的に俺はあまりこの部屋に来る事は無い。研究会などを自身から誰かとやる事もないしなんなら1人でひたすら考えている事の方が多い。
そんな俺がこの部屋にやって来た理由はたった1つ。弟の将棋を見届ける為だ。来たる午前10時。ついに2人の対局が始まった。
先手、後手の決まっている戦いのため、どちらとも己の作戦通りの陣を作り出す。神鍋君の陣形は矢倉囲い。固めてくる気だ。
何やらいつも通り神鍋君が厨二発言をしている様だが淡々と記者の人がメモをしていく。八一も静かに駒を打っていく。すごいシュールだ。言い忘れていたが本日の対局は帝位戦の予選だ。ちなみに俺も出ている。神鍋君はここまで全勝。今日勝てば挑戦者決定戦への道が大きく開ける。俺は同じく全勝。ひょっとすれば決定戦で当たるかも知れないのだ。対して八一は完全なる消化戦。
しかしそれでも本気でぶつかる事に意味があるのだ。
対局開始からの30分で46手も進んだ。まぁ相矢倉なので当然と言えば当然なのだがな。
そこで神鍋君が囲いを穴熊に発展。固くなってきた。それに対して八一は様子見。しかし、神鍋君は攻撃を始める。
持ち上げた駒は香車。盤の右端から鋭く直進してきた香車は凄まじい。銀捨てしてまでの猛攻。八一もさぞ戦慄しているだろう。これが噂に聞く『神鍋流1五香車』だ。
ここで香車を取る事は簡単だがそれだとそれに対しての研究が発動する。それを厄介がって中々次の一手を決めれない。八一はだからこそ中々打てないのだろう。
最終的に打った手は香車を取らないと言う選択肢だった。
この局面で昼を迎え八一はあいちゃんと弁当を食べに行く。午後からは本当に私用がある為、一度棋士室を離脱する。
再び向かったのは理事長室。なんか2度目のお呼び出しを喰らいましたとさ。
もう一度同じ動作を踏み部屋に入る。そこには理事長と堂々とした風貌のお年寄りがいた。何かこう、優しさの中に覇気を感じる。
「理事長。そちらのお方は?」
「夜叉神 弘天さんです。先ほど話していた子のおじいさんです」
「夜叉神 弘天と申します。一ノ瀬先生、この度は孫の弟子入りの件。"引き受けてくださりありがとうございます"」
「いえいえ、そんな事..................ん?デシイリデスカヲヒキウケル?」
「はい。本当にありがとうございます。孫はとても気が強くてですね」
そこに追っかぶせるように会長が言った。
「一ノ瀬玉座もそろそろ"弟子が欲しい"と言っていて丁度良かったですからね」
「................................」嗚呼、お父様にお母様。師匠に桂香さん。愛する我が弟に妹。どうやら私は何処かで発言ミスをしていた様です。
「夜叉神さん。まぁひとまず席にお座りください。一ノ瀬玉座もどうぞ」
「ありがとうございます」「アリガトウゴザイマス」
「その孫というのがこの子なんですが。天衣と言います」
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