回顧
自らを轟焦凍と名乗った、公安の刑事。
その名、その姿──直接面識のない出久の頭の中でも、完全に点と点が繋がった瞬間だった。
「もしかして、かっちゃんのクラスメイトだった……?」
刹那、轟のオッドアイがじろりと出久を睨めつけた。触れれば切り裂かれそうな鋭さに、ぞくりと身体が震える。
一方、呑気に警察手帳を覗き込んでいた切島が「うおっ」と声をあげた。
「警視!?出世してんなあ、さっすが……」
「そうでもない、普通だ」
「そんな謙遜して……うごっ!?」
旧友との再会に舞い上がる切島の首根っこが、同じ立場の男によって引っ掴まれた。
「実際フツーだろ、キャリア組なら」
「……キャリア?」
キャリア組とは、国家公務員総合職試験をパスし、警察庁に採用された幹部候補……早い話が官僚である、警察でもそれは同じ。警察組織にかかわりのない出久でさえ、その程度は知っているが。
「なんでキャリアってわかるの?」
勝己本人に直接訊くのは憚られたので活真に耳打ちする。と、彼は予想通り懇切丁寧に教えてくれた。
「一般の警察官……いわゆるノンキャリアが三十代で警視に昇任するのはほぼありえないことなんです、そもそもそこまで昇任できるの自体ごくひと握りですし。ちなみにそちらの塚内課長がそのひと握りでもあります」
「!」
思わず振り向くと、塚内は叩き上げの刑事とは思えないのんびりした表情でひらひらと手を振ってくる。彼は何も言わないが、本庁の捜査一課長はノンキャリアの最終到達点かつ花形と言っても良いポジションだ。さらにその上、部長クラスにもノンキャリアの席はあるが、現場の刑事の憧れという意味では遜色ないポストなのである。
閑話休題。
「一方でキャリアは、30歳になる頃には自動で警視に昇任します」
「ええ……すごいな……」
自分のようないち教師には想像しがたい世界だと出久は思う。
一方で、轟警視は既に本題の話に入っていた。
「塚内課長から状況は聞いた。結論から言えば、今回CIAから盗み出されたEEGコントロール技術が犯行に使われた可能性が高い」
「犯人の目星はついとんのか」
「ヴィランか反ヒーロー団体か、はたまた国際テログループか」
「要するになんもわかってねえんじゃねーか!!」
「悪ィ」
悪びれるそぶりもない謝罪に勝己は青筋を浮かべたが、昔からこの男はこうだった。いちいちまともに取り合っていては話が進まない。
「だいたい、ンで俺だけなんだ。社会を混乱させようってンならそこら中のヒーローの脳波入れ替えちまったほうが効果的だろ。相手もデクみてーなパンピーじゃなくて、ヴィランにするとか」
自分で言っていて、背中に冷たいものを感じる。もしそうなっていたら、今頃は。
「無差別に入れ替えができるわけじゃねえ、脳波を操作するには専用のチップを体内に埋め込む必要がある。最近、何か手術をしなかったか」
「知ってンだろ、こちとら健康そのも…の……」
言いかけて、はたと思い至った。
「……おい、手術ってのはなんでもいいのか?簡単なモンでも?」
「ああ。何か心当たりがあるのか?」
「先々週、親知らずを抜いた」
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