雨天飛行
――――早朝、滑走路――――
太陽が昇り、また一日が始まる。天気予報によれば本日は雨、そしてネウロイ予報によれば本日は敵襲。最悪の一日だ。
無論、自らは天候など気にしない。なぜなら自らはただ一つの武器であるのだから。
敵を打ち倒すために、コンディションは重要ではない。常に万全であることなど、無いのだから。
だからこそ、どんなときでも変わらない冷静な判断力と、心の強さが必要とされる。
背後から足音が聞こえると、男は視線を足音の主に向けた。
「お? ヴァレリーじゃないか。こんな朝早くからどうした?」
基地からは扶桑刀を持った坂本が歩み出、滑走路に腰掛ける男に言葉を投げる。まだ起床の時間にはずいぶん早い。
「坂本少佐? おはようございます。私は――眼が覚めたので、日の出を眺めていました」
「そうか。どうだ、ヴァレリーも訓練に付き合わんか? 宮藤とリーネ、ペリーヌも来るだろう。お前ほどの奴でも何か新しい物を見つけられると思う」
その言葉に、男は首を縦に振る。他人に稽古をつけてもらうのは久しぶりだったし、あまり話したことの無い二人と多少でも打ち解けられれば、と考えたからだ。
そしてあわよくば、この腐って糸を引いた考えが少しでも断ち切れれば良いと考えたからだ。
「そういえば、ヴァレリーの撃墜数はどれくらいだ?」
「確か……ここに来る前の公式記録は125程度のはずです」
「125!? すごいな!」
「激戦区ばかりでしたから。それに、6回落とされています。私と同じく無茶苦茶な飛び方をすれば、誰でも私以上のスコアにはなるはずです」
被撃墜、それは死と同義である。ストライカーから放りだされて地面に叩きつけられ、生きているものはおよそ四割、再び空へ飛び立てるのはその中でも五割と言われている。
もちろん、空中で味方が回収すれば生存率は上がるが、回収した味方機へのネウロイの攻撃や撃墜時のトラウマによって、空に戻れる者は決して多くはない。
ネウロイの攻撃にさらされ、十分な補給も届かぬ前線で、この男は生にしがみついたのだ。おそらくは、ネウロイへの復讐のために。
「おはようございます坂本さん……あれ? ヴァレリー大尉?」
「どうして貴方がここに?」
「ひょっとして、お話中でしたか?」
靴音を響かせ、宮藤にペリーヌ、リーネの三人が現れる。夜闇は既に溶け落ちている。空はまだ、快晴だ。
「ん、いや、ヴァレリーも訓練に参加するそうだ」
坂本の言葉に、三人は驚いたように一様に顔を見合わせる。
「よし! では早速基礎訓練だ! 滑走路十往復! ヴァレリー! お前は二十往復だ! 扶桑男児たるもの常に前に出れるようでなければならぬ!」
「坂本さん! ヴァレリー大尉はガリアの生まれです! ガリア男児です!」
「はっはっは! 細かいことを言うな! その、アレだ! れでぃーふぁーすとと言う奴だ!」
「坂本少佐、それは途方も無く意味が異なりますわ……」
ペリーヌと宮藤の意見を豪放磊落に笑い飛ばした坂本を気にする様子は無く、男は柔軟を開始する。コートに手をかけ脱ごうとしたようだがその手を止める。どうやら暑苦しいアフリカ熱帯仕様のままでのランニングとなるようだ。
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